寮生活パロ、設定は適当







家庭科室の大きな窓から鳥が飛んで行くのが見える。それに被さるように薄ら透明に二人の姿が映っていた。一人は静かにお茶を啜る青年、もう一人は勢い良くマフィンにかぶりつく少女の姿だ。

「今は四限か…そうだな、アミティのクラスは確か数学の時間じゃないかな?」
「…」

大きく触るとひやりと冷たい白い机にはよく映える赤いテーブルクロスが敷かれていて、しかしそこに置かれるのはなんともマッチしない和製の湯呑みだ。赤茶色の皿へ置きながら一息ついたレムレスは隣で相も変わらずマフィンを頬張る少女へ問いかけた。この時間にこの場にいる事はおかしいんじゃないのかい?簡単に直接的に行ってしまえばこうだ。アミティはぎくりと目を泳がせたが、まるで聞こえないというように知らんぷりをしてマフィンの底へ張り付いた薄い紙の小さな生地指で拾い集め口へ運んだ。

「おいしかった!」
「そうかい?」
「うん!よかったら…もう一個…」

聞こえないふりをしつつ、何故自分のクラスの時間割を把握しているのか、そこだけは非常に気になる所だったがまあ甘いものを食べてしまえばそんな小さな事気にするほどのものでもない。ちらちらと誘惑のように瞬きをしながらレムレスを見る。困ったように薄い笑みを続けながらも、この娘の無邪気さには敵わないと自分用に冷ましていたマフィンをもう一つ手渡した。

「ありがとう!」
「先生に怒られても知らないよ?」
「食べ過ぎて怒られることはないよ」
「違うよ、学生は勉強しなきゃね」
「わざわざこんな所に来てお菓子作ってるような人に言われたくない…」
「はは、それを言われたらどうしようもないね」

数学はさっぱりわからないんだもん。それに四時間目はお昼過ぎちゃうからお腹すいちゃう。そう言ってむくれてしまった。まるで子供のような言い訳だし、だからと言ってサボりをしてしまうのは宜しくないがこの時間しかいない自分に会いに来ていると考えればまあ反論する事も出来ない。そういえば、話題をすり替える様にそう話を切り出したアミティは「たまに噂になっているよ」そう笑った。

「怪しい人がいるって、この学校で勝手にお菓子作ってる人がいるんだって。噂っていうより事実だけど」
「たまにいるね、お化けでも見るみたいにここを覗いて逃げて行く人が」
「そりゃ驚くよ、先生が作ってるならまだしも」
「アミティのときみたいに誰でも歓迎するから、食べていけばいいのに」
「普通の人なら絶対近付かないと思う…」
「それは自分が普通じゃないって言ってるのかい?」
「えーそんなこと…うーん…ないといいなあ…あたしはお菓子が食べたいだけだもん」

言ってみたものの自信がなさげに言葉が弱々しくなる。喉につっかえそうになっていたのでお茶をついで差し出した。

「それは少しショックだなあ」
「え」
「アミティは、それを作ってるの僕じゃなくても毎日食べに来るかい?」
「えー…なにその質問…」

お茶を飲み干して冗談めいたように笑うアミティの言葉を遮るように彼女の口元に付いたマフィンのくずを舌で舐め取った。

「へ」
「今日のマフィンには薬が入ってたんだ、気付いてたかい?」
「あ、え?な、なにそれっ」
「僕の作ったお菓子しか食べられなくなっちゃう薬、甘いもの食べたいよね?だったら明日もおいでよ」

授業に出ろと告げた先ほどとは言ってる事がまるで違うではないか。あまりの展開に思考が追い付かず口をぱくぱくさせる。今にもショートしそうな彼女の顔を満足げに見つめたレムレスは温度の下がった湯呑みのお茶を静かに啜る。底に溜まった茶葉は渋くて苦手だと笑った。


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