ドキサバ設定






冷たい、そう思った。そのままゆるゆると目を開くと見慣れない木で作られた屋根。視線を横に移すと心配そうな顔をしてこちらを見ている幸村さんの姿があった。目覚める前に感じた冷たさは頬にあてられた彼の手のひらだった。そういえば昨日は布団に入った記憶がない、私は何をしていたのだろう。

「気分はどうだい」
「あ…」
「海の前で倒れていたんだ、流石に驚いたな」

そうか、思い出した。私は夜の海を眺めていた。おばあちゃんはきっとこの島のどこかにいる、そう思いつつもどこか不安を隠しきれなくて。おばあちゃんはもしかしたら黒く波打つ向こう側に行ってしまったのではないか、そんなことを考えながら。

「疲れが出たんだろう。もう夕方だから、このままゆっくり休むといい」

夕方という言葉に驚きを隠せなかった。私はそんなに長い時間眠っていたのか。そういえば皆さんの食事作ってない。いけない、ご飯作らなきゃ、そう呟きながら立ち上がろうとすると幸村さんにすかさず制止された。

「大丈夫、今日は自分達で作ったから、全く…人の心配してる状態じゃないだろう」
「っ…ごめんなさい…」

苦笑しながら言う幸村さんにもう一度謝った。私は料理くらいしか皆さんの役に立てるところがないです、こんなところで倒れてしまってごめんなさい。そう呟くと我ながら情けなさが込み上げてきて視界が滲む。

「ふふ…まあ確かに料理は君じゃなきゃダメだね、ブン太が文句言ってたよ。竜崎の飯が食いてえ!って」
「丸井さんが…」

その言葉に再び涙が滲んで許容量を超えた涙がぼろ、と目尻を伝って枕を濡らした。「料理しかない、とかそんなこと言うけど…俺は駄目だな、君がいないと」にこりと笑いながらそう言って親指で私の涙を拭ってくれた。俺だけじゃないさ、今日の練習は酷かった。みんな竜崎さんが心配で仕方ないのかまともに集中できてない、普段なら叱るところだけど俺もそうだったから何も言えなかったよ。無様な姿だったから見られなくてよかった。と続けて笑う彼の言葉はいまいち信じられなくて、真に受けるのも恥ずかしかったけれど、少し安心した。

「みんなの役に立ちたいなら、一秒でも早く君の元気な姿を見せて欲しい、竜崎先生がいなくて君は誰よりも不安なはずだ、もし悲しくなったら俺たちに話してくれればいい、いくらでも聞くよ」
「はい、ありがとうございます…幸村さん」
「うん、ん…?いや、違うな。やっぱり俺達じゃなくて、俺にだけ話してほしいな。他の奴に君の心の内を見せてしまうのはあまりに勿体ないから」

張り詰めていた糸が切れたように安心したのかまた眠気が襲ってきた。笑いながら言う幸村さんの言葉の意味はよくわからなかったけど、もし次不安になったら真っ先にこの人に話そう。そう思いながら私は再び眠りについた。
不安を頂戴



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