丸井と桜乃の二人は、デートの帰りだった。バス停の看板は錆びれて色あせている。桜乃自身は、送ってくれるのは嬉しいけど丸井さんに迷惑がかかってしまうと気を使ったが、日は長くなったとはいえ、女の子一人を歩かせるわけにはいかない!それにお前がこんな所から一人で帰ったら迷って朝になっちまう。と半ば強制的に送られる身となってしまっていた。暦の上ではもう春だというのに、夜は真冬のように冷える。ちかちかと不安定な光を放つ灯りが二人の影を細長く見せて、そんな薄暗い景色の中で息を吐くと白く染まった。

「おりゃ」
「ひょわああっ」

自分が好きで送っていくって言ってるのに未だに申し訳なさそうな表情をして俯いている桜乃へのささやかな悪戯心。マフラーで隠されている首元へと手を突っ込んでやると、驚きと冷たさで異様な声を上げた。

「な、なにするんですかぁ」
「へへ」

鼻をずっとすすりながらお前あったけぇなぁと言いながら笑うと、怒るに怒れなくなったという表情をして顔を赤くした。もう一度ずぼっと手を入れられる。傍から見ると首を絞めてるようにも見えなくもないが、生憎周りに人はいないため問題はない。桜乃は内心何をやってるんだろうと冷静に考えつつ、だけど本当はそこまで悪い気はしなかった。

「お前の手冷たすぎ」

首から手を離して桜乃の手を握るとそう言った。中途半端に温くなった丸井の手はあっという間に人のことを言えない先程の冷たさに戻ったが、繋いでいればそのうち良くなるだろう。そんなマイペースなことを考えながら、バスが来るのを待つのだった。
愛の滲む町



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