理解しているつもりだった。竜崎桜乃という人物はその屈託のない笑顔で自分含めレギュラーの全員を一瞬にして虜にさせた。だから、自分以外の人間も彼女に触れたいと思うのは当然の事で、仕方のない事なんだ。そう言い聞かせたかったが、どうやら今現在の柳蓮二という人間の思考回路はまともじゃないらしい。俺の腕の中で竜崎が苦しい、と呟いた。息が出来ないほどに強く抱き締めているから、それは当然だった。どうしてこんなことになっているのか、きっと竜崎はそう思っているのだろう。

自分にとって彼女の頭を撫でるという行為は他の何よりも幸福を感じられるものだった。竜崎は頭を撫でられると少し恥ずかしそうに俯いて、しかし嬉しそうに目を細めて笑う。そんな表情がとても好きで、自分の物だけであってほしいと思った。そんな俺の考えを知ってか知らずか、仁王は竜崎の頭を撫でた。あいつのことだ、恐らくわざとだろう。冷静になろうとしても仁王の手が竜崎の頭に触れただけで、自分の中に今まで感じたことないような苛立ちが募る。部室でその光景を目の当たりにしてしまい、拒否反応を起こした自分の脳と身体は早く出ろと指令を出す。立ち上がり部屋から去ろうとしたとき、仁王と視線があった。不敵に笑う仁王の表情に、苛立ちと不快感は更に増した。

外に出ても苛立ちは消えなかった。どうしようもないこの感情の名は知っている。嫉妬という人間の嫌な部分をそのまま表したような汚いもので、俺はその感情を消す方法を知らなかった。結局どうすることもできず部室に戻ろうかとも考えたが、今戻ってもまともに居座っていられる自信がない。図書室にでも行こうと方向転換をしたその視線の先には、不安げな顔をした竜崎が立っていた。少し息が切れている、走ってきたのだろう。

「竜崎…」
「あ、あの…私、何か柳さんを怒らせるような事してしまいましたか…?もしそうだったら…」

すみません、と言うつもりだったのだろう。しかし言われる前に抱き締めた。嬉しくて仕方がないのだと自分の中で何かがざわめく。子供の駄々のようなそれが無性に腹立たしくて、しかしその想いすら竜崎に伝わってしまえばいいのに、そんなことを考えながら力を強くした。

「お前に触れていいのは、俺だけだ」
「え…」
「お前はレギュラー全員の事が好きだろう、そんなことはわかっている…だが俺はそれでは耐えられない、耐えられないんだ」

特に頭を撫でられるのは嫌だ。勝手に出てくる言葉があまりに情けない。そんな俺の様子に竜崎はくすりと笑った。

「お前はもう少し危機感というものを持った方がいい、というより持ってくれないと不安で仕方ないんだ」
「わ、私が好きなのは柳さんだけですよ…?」
「…そう言う所が不安なんだ」

俺以外の奴にも流れてしまいそうで、そう言うとええ!とショックを受けた顔をする。口ではそんなことを言いつつ実際は嬉しくて仕方ないのだが、誤魔化した。頭を撫でてやりたくて手を置くが、今はこれでは足りないな、そう思い手を後頭部へ移動させて引き寄せるように口を塞いでやった。
臆病な神経


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