夜遅く丸井は目を覚ました。寝巻代わりに来ていたジャージの袖を引っ張られた感覚がしたからだ。深く眠りについていたが文句は言えない。何故なら袖を引っ張った人物は、彼の隣で眠りについていた竜崎桜乃。先日から一緒に暮らしている丸井の誰よりも愛しい彼女だったからだ。

「どうした?また変な夢見た?」

できるだけ優しい声で尋ねると、袖を少し強く握った。おそらく正解だったのだろう。顔は毛布に埋もれていて確認することが出来ないが、以前にも似たようなことがあったとき目が真っ赤になるほど涙を滲ませていたので、今回もおおむね同じだろう。空いている方の手を探り出して、繋いでやる。

「起こしてしまってごめんなさい…」
「もう慣れたよぃ」

落ち着いてきたのか布団から顔を出す。予想通り目は涙で濡れていた。申し訳なさそうな顔をして謝罪をする桜乃に苦笑を浮かべながら抱き寄せてやる。しかし成人を迎えて未だに怖い夢で泣くというのもなかなか珍しいものだ。冗談でそう言ってやろうかなとも思ったが、本気で落ち込みそうなのでやめた。まあそういうところが可愛いんだけど。心の中で言ったつもりが小さく声に出てたようだ。桜乃が不思議そうにこちらを見る。なんでもない、と適当にはぐらかした。

「なんだか訳のわからない夢でした」

誰かに話さなきゃ不安で仕方ないのか、独り言のようにぽつりぽつりと夢の内容を紡ぐ。しかしそれはベタに幽霊に追いかけられたとか崖から落ちたとか、そういうのではなくひたすらまとまりがなく混沌としていて、そのカオスな内容に丸井自身も聞きながら思わずそりゃあ怖いわと納得してしまった。

「怖かったです…」
「そんな夢見るだけで疲れそうだな…てか怖い夢見たあとって寝んのやだよな」

ぎゅうと強く抱き締めてやりながらそう言うと、桜乃は小さくながらもこくこくと頷いた。そしてその言葉のせいでうっかり想像してしまったのだろう。続きを見てしまったらどうしよう、不安気に呟いた。このままでは下手したら一日中寝ないように頑張られそうだなと思った。それは困る、女の子の夜更かしはよくないんだ。顔を自分の方へ向かせて頬を伝う涙の痕をぺろりと舐める。ひゃあと声を上げた。そんな声をも味わうように唇を塞ぐ。短く何度もキスをしてやった。

「…っ、いきなり」
「これで俺の事しか考えられねぇだろ?変な夢見ても俺が守ってやるから安心しな、…あれ、もしかして足りない?もっと深いのがいい?」

そう冗談で言ってみたら、そんなわけないです!と布団に潜り込んでしまった。残念だなと笑って、仕方なくもう一度彼女の手を握る。静かに目を閉じた。しかしどうも眠れない、時計のカチカチという音が嫌に気になって再び目を開くと、先程まで見えなかったはずの桜乃の顔があった。流石に驚いた丸井はおおうっと後ずさる。

「どした?」
「目を閉じても本当にブン太さんのことしか考えられなくてっ…あ、あの、でも」
「やっぱり足りなかったんだ?」

にやりと笑う丸井に顔を真っ赤にした桜乃は目をぎゅっと瞑り、ほんの微かな声でだがはい、と返事をした。その瞬間再びキスをされる。先ほどより深く長い。彼女の甘い口内を味わいながら、正直一番恐ろしいのはこいつだな、そんな事を考えながら無意識に誘惑してくる可愛すぎる彼女のことを抱きしめてやった。
夜の音は透明



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