よろしくアンドロイドの続き






こいつと出会ったのはいつのことだったか、思えばつい最近のことであるのに、最早昔のことのようにも感じる。それは彼女の雰囲気のせいかそれともそうであって欲しいせいか、そんなこと分からない。知りたくもない。例えば他の女の不快な指が、脚が、腰が、声が、絡み付いた汚い自分を知ってしまったら彼女は自分から離れていくだろうか、幻滅したと唾を吐いて、顔を叩くだろうか。

「まさか」
「えっ」

ああ、いつの間にか声に出てしまっていた。今まで黙りこくっていたくせにいきなり喋るものだから竜崎は驚いた顔でこちらを向いた。自嘲しながらなんでもないと言うと、そうですか、と紅茶を注ぐ作業へと意識を戻した。微かに心配気な表情を隠しきれないようだが。カップを俺の目の前に置く。そんな動きをする竜崎の腕はテニスをしているとは思えないほど細くて、折ってしまおうかと考えた。

「に、にお、さ」

今日は雨が酷い。窓をせわしなく叩いていく雨音に眉を潜めた。下を向くと涙をぼろぼろと零しながら消え入りそうな声で小さく喘いでいる。ああどうしてこんなことに、何を言っているんだ最初からそうするつもりだったのだろう。彼女の声は耳に焼き付いて離れないこの間の下品な女の声を消してくれる気がした。

「ひ、あ」

彼女の足が跳ねるのと同時にがたりと音を立てて机が揺れる。それに続くように冷めてしまった紅茶が零れる。カップが自分の手元に落ちて、砕け散った。破片を手で踏んでしまったのか切れて血が流れた。竜崎が心配そうに目を開くが、今は、

「泣か、ない、で」

自分は泣いているのか、最早何をしているのか、竜崎も竜崎だ。犯されているというのに呑気な事を、ああ、割れたカップが俺を嘲笑っているかのようで。

俺のそばにいて欲しい、そんな些細な願いさえ俺には言える資格などなく、まるで自分のような破片の痛みに再び涙が頬を伝った。
或る花束



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