ガラにもなく遊園地、竜崎と二人、彼女の足元、見慣れないヒール。いつもはそんなものを履くような印象はなく緊張にやられそうになりながらどうしたんだと訪ねると、張り切ったように今日のために買ったんですと彼女は言った。俺は意味がよくわからず、何故と聞き返した。すると彼女は、誕生日だから、少しでも真田さんに近くにいれるように、そう言って笑った。無意識に腕の中へと閉じ込めていて思わず顔が赤くなるのを感じた。

しかし慣れない物を、ただでさえやたらと高いヒールをそう簡単に履きこなせる筈がなく、ふらふらとバランスを崩すたび肝を冷やす。その度に彼女が酷い痛みを感じているような表情をするものだから、俺は放って呑気に楽しめるわけがなく、近くにあったベンチへと彼女を座らせた。

「無茶をするな」
「す、すみません…」

彼女の前に跪くように座り、細い脚を見ると痛々しく赤く腫れていて、最初から、俺がこのヒールのことを質問したときから既に我慢していたのではと思わざるを得ない。ついキツイ言い方をしそうになり、目の前にいるのは竜崎なんだと必死に堪える。

「俺は常にお前のすぐ傍にいるつもりだが、この体勢なら、尚更近い」

目に涙を溜めて今にも泣き出しそうな彼女にそう言う。とんでもなく恥ずかしいことを言っているのが直ぐに分かるが、今はそんなことを気にしている場合ではないのだろう。そう、今は余計なことを考えずに、目の前で手を伸ばして待っている彼女をもう一度抱き締めるということだけ、考えていればいい。それだけでいいんだ。
ツマサキ



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