ドキサバ設定







小さく波の音をたてて揺れる大きな海は何もかも飲み込んでしまいそうなほどに黒い空を映して同じ色に染まっていた。白くぼんやりと光る月と、古い物のせいかキイキイと嫌な音が鳴り響くランタンを頼りに自分の寝泊まりしているロッジへと歩みを進める。

「あ、あの」
「!」

自分のように起きてる輩はいるだろうと思っていたが、まさかこんな時間に声をかけられるとは思ってもいなかった日吉は思わず警戒心から肩を揺らした。その声には聞き覚えがあった。目的は違ったはずだが、同じ船に乗り合わせていて、運悪くこの島へと流れ着いてしまったあげく祖母とはぐれるという散々な目に合っている青学の一年。

「竜崎…」
「ひ、日吉さん…こんばんは」

ぺこと頭を下げる桜乃の姿を見て、思わず顔がひきつる。何故こんな時間に女子がうろうろほっつき歩いているのか。

「お、お手洗い行ったら…道がわからなくなっちゃって…」

確かこいつは極度の方向音痴だと誰かが言っていたのを思い出した。やたらとうちの先輩たちはこいつを構いたがる。出会ったのが俺でなければ簡単に送ってってくれる人がいただろうが、生憎の俺だ。そうかそれは大変だな、と言い残してその場を立ち去ろうとすると、桜乃の目からぶわっと音が聞こえてくるような勢いで涙が溢れだす。突然のそれにひぃ、と情けない声が漏れた。早々に逃げ出したいが寝巻のTシャツの端を掴まれているためそれは叶わなかった。

「も、もう頼れる人が日吉さんしかいないんです!」
「っち、わかった、送ってくから泣くな!」

うぇえぇんと泣きわめく桜乃の声に、周りの輩が起きてこの現状を見られたら色々と困る、というか面倒くさいと悟った日吉は仕方なく折れた。というかここまで泣かれて放っておいたなんて知られたら、鬱陶しくやかましい先輩たちになんと叱られるかわからない。ぐしぐしと手で乱暴に涙を拭ってやる。ようやくしゃっくりが止み、はぁと安堵ののため息をついた。何故俺がこんな目にと運の悪さを身に感じていると、ふと桜乃の顔に違和感を感じランタンを近付ける。

「ど、どうしました…?」
「お前、顔真っ青だぞ」
「え、あ、そうですか…?そんなこと…」
「ちゃんと食べているのか、というより周りの奴らがお前に頼りすぎなせいか…あまり構っていると本当に倒れるぞ」
「い、いえ…皆さん優しいので大丈夫ですよ」

そういう問題じゃないだろう。というか仮にこいつが倒れたとすると先輩たちは余計に騒がしくなる気がする。全員が全員こいつが眠るロッジに入り浸るだろう。想像するだけで尚更体調を悪くしそうだ。

「ありがとうございます、日吉さん…」
「何がだ」
「心配してくださったんですよね。今も結局無理言って送ってもらってますし…すみません」

何故俺がお前の心配をしなければいけないんだ。と口走りそうになるのを必死に堪えた。またこんなことを言って泣かれたら困る。こういう時にどう返事を返せばいいのか困っていると、彼女のロッジが見えてきた。正直こんなにすぐの距離で何故泣くほどに迷うのか理解が出来ない。それが方向音痴というものなのか。

「ほら、着いたぞ」
「あ、ありがとうございます!よかった…」

もう出来るだけ会話をせずにここを立ち去りたい、のに。させないと言うように桜乃は日吉の手を握ってぺこぺこと頭を下げる。ペースに巻き込まれっぱなしのどうにかなりそうな頭でなんとか冷静に考えた。仮にこれでこいつを発見したのが俺ではなく忍足先輩だったら。考えるだけで身体中に悪寒が走る。

「っまた迷ったら俺が送っていくから。他の奴に頼るんじゃねぇぞ」
「え、あ、」

そう吐き捨てるように告げ、耐えきれず手を離してその場から走って逃げだした。背後から小さくありがとうございました、おやすみなさい、と言う彼女の声が響いたが、今は聞こえないふりをした。はぁっと先程より大きなため息をする。結局自分もあの情けない部員達と同じじゃないか。先程まで握られていた自分の手の熱さに隠しきれない苛立ちを感じながら、一直線へ自分の寝床へと走った。
REFLECT BOY



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