ドキサバ設定






青い空に眩しい太陽がさんさんと輝く。いい天気だなんて笑ってはいられない。その下に立っているだけでどんどん自分の体力を奪っていく日差しに、やってられるかとぼやいた仁王は木の蔭へと身を隠した。ペテンで太陽隠してしまえたらええのに、暑さのせいかぼんやりと鈍る頭は、無謀なことばかりを思い起こさせた。

「仁王さん大丈夫ですか?」

眠ろうにも暑苦しさが邪魔をする。せめてものこの息苦しい世界から何もかもをシャットダウンしてしまえと目を堅く閉じた。が、ぱちりとそれはすぐに開かれる。人間関係というものに滅多に関心を示さなかった仁王が自分自身も驚くほどに心を奪われてしまった少女、竜崎桜乃の声が聞こえたからだった。

「水、どうぞ」
「ああ、すまんの」

見るだけで暑さに負けてしまっている事が一目瞭然だったのだろう、桜乃は相手が何も答えずとも水を差しだした。動く体力も気力もない仁王は、ぐでっとやる気のない姿勢のまま手を伸ばしてそれを受け取った。

「水、他の奴にも配りに行くんか?」
「はい、そうですよ」

にこやかに笑って返事をする。腕にどっさりと抱えられたペットボトルを眺め仁王はふぅんと唇を尖らせた。そして何かをひらめいたように相手にわからない程度ににやりと口角を釣り上げる。

「じゃあ、俺も手伝おうかのう」
「えっ、そんな。悪いですよ!」
「今は練習をやる気もないんでな、そっちのが楽じゃろう」
「そうですか…?じゃあ…」
「そうそう、人の好意は素直に受け取るもんじゃよ。あ、すまんが起こしてくんしゃい」

ん、と両手を伸ばす。はいっと力強く返事をした桜乃は、ペットボトルを地面に置いて仁王の腕を掴んだ。それっと力を入れようとした途端、ぐいっと自分とは逆の方に引き寄せられバランスを崩す。予想外の出来事にしばらく呆然としていたが、はっと正気に戻るとそこは仁王の腕の中だった。

「な、にお、さ」
「大胆じゃのう、人の上に乗っかってくるとは」
「え、ち、ちが」

ぱくぱくと口を動かすも、まともに言葉になっていない彼女の様子を見て仁王はくっくっと心底愉快そうに喉を鳴らして笑った。

「手伝ってやろうかと思ったが気が変わった」
「ええ、そんな」

他の男のところへ行くなんて見過ごしておけない。という本当の考えは敢えて伝えずに、背中に回した腕を更に引き寄せると甘い香りがした。こんなときの人肌なんて気持ち悪く手仕方ないだろうが、彼女はそうでもなく、それを存分に楽しんでから離してやろうと企んでいた、が。

「それはアカンで、仁王クン」
どこからともなく関西弁が聞こえたと思えばひょいっと桜乃を抱え引き離される。

「ちゃんと練習せな」
「…お前さんの顔見たら余計する気無くなったぜよ」
「それは光栄やなぁ」
「今は休憩中なんよ」
「休憩中に桜乃ちゃんに手ぇ出す必要はあるんか」
「問題あるか?」
「大アリやで」

抱えたままだった桜乃を地面に立たせて、服についた砂をぱたぱたと払ってやる。そんな四天宝寺の部長、白石蔵ノ介の様子を気に食わなさそうに眺めていた。

「それもセクハラなんじゃないかのう」
「んなわけあるかい」

全く、とんだ邪魔が入った。

「あ、あの…仁王さんの練習、もしかして私が邪魔しちゃってました…?」
「そうナリ」
「いやいや、ちゃうやろ」
「ごっごめんなさい仁王さん!」
「いやいや桜乃ちゃんちゃうから、謝る必要性皆無やから」

何故そうなる、完全にこの男のモチベーションの問題だろう。と大阪人としてのツッコミの血が騒ぐ。ひょうひょうとしているように見えて、桜乃が関わってくるとまるで別人のように執着心を見せる。侮ってはいけない奴だとは思っていたが、ここまで面倒だとは。本当に立海大附属という学校はクセモノしかいないのか。

「無駄多いわ」

小さな声で呟いたと思えば桜乃の足元に転がるボトルを抱える。ぴく、と反応を示した仁王はばっとそれを奪い返す。

「やる気ないならそこで寝とったらええんとちゃうん?」
「だからと言って別にお前さんに手伝ってもらう理由は無いんでの」
「別に仁王クンを手伝うわけちゃうで」
「当たり前じゃ気持ち悪い」

そんなやり取りが繰り返される。顔は二人ともにこーっと怪しげに笑ってはいるが、その言葉は刺だらけだ。ただでさえ彼女を狙う輩は多いっていうのに、何故よりによってこんな面倒な奴がいるのか、お互い気付かぬうちに同じ事を考えながら、言い争いはしばらく続いていた。
(仲、いいのかな…この二人)
隣人に警戒なさい



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