切原赤也という男は今現在、どうやら浮かれている。どうやらというか見てればわかるんだけど。普段は練習だりーだのなんだのって文句ばっか垂れているくせに、今日ときたらなんだ。ニッコニッコニッコニッコと可愛くもなんともない笑顔を振りまきながらラケットを振りまくっている。校外を走りまくっている。腹筋をしまくっている。腕立て伏せをしまくっている。正直気持ち悪い。今日の部活はアイツのせいでほとんど集中できなかった。周りの奴らもそうだ。あまりに迷惑だったので(そして何があったか聞いて欲しそうな顔をしている為)部室で着替えをしている時に聞いてみた。

「お前なんかいい事あったわけ?」

乗り気ではなかったがそれだけ尋ねた。するとなんだ。ただでさえキモい表情を更に緩めて、ニヘラニヘラと笑いながら「昨日竜崎と初デートだったんすよー!」と言う。思わず俺は近くにあったラケットをコイツに向かってぶん投げた。

「いってぇ!ちょ、いきなりなんスか!」
「うるせぇアホ!死ね!とりあえず死ね!」

投げたくもなるだろう。死ねとも言いたくなるだろう

「もしかして羨ましかったんスか?そーっすよねぇ、桜乃めちゃくちゃ可愛いし、あ、桜乃って呼んじまった。二人だけの時って約束してたのに」

ラケットが壁へとめり込んだ。メゴォと恐ろしい音が部室中に響いた。見事なまでに刺さっていた、壁に。俺じゃない、俺にここまでのパワーはない。コイツのお惚気は確かに怒りを増幅させるが、もはやバイキルトかけなくても五倍の力は出せそうなほどに腹立つが。というかラケットは放り投げるものじゃない。先程投げた俺が言うのもなんだけど良い子の皆は投げるなよ。俺のこれは妙技ってやつです分かりましたか?

「そろそろやめようか、赤也」

静かな声だ。しかし何故地面が揺れているように感じるのか。何故ズモモモモと言うラスボス登場的な効果音がこの狭い部室で鳴り響くのか。それは簡単だ。ラスボスが登場したからだ。まだ最初のダンジョンすら入ってないのに。しかしスーパーハイテンションというものは恐ろしいものだ。普段の赤也だったらラケット飛んできた時点でガクガク震えるのに。今日はそれすら怖がらない。どうなってんだ。ある意味それが一番怖い。痛みに気付かなくなるということほど危険な事はないのだ。

「あっ幸村部長ー!見てくださいよ!昨日撮ったプリクラ!」

やめろと叫びたかった。しかし時既に遅し。携帯は見るも無残に砕け散った。どうやったんだ。そこが気になる所だが今はそれどころじゃない。流石にこれはキレて赤目になりかねない。これはやばいだろぃ、そんな焦りを込めて俺は柳にアイコンタクトを送った。しかし柳は全てを悟っているかのように俺から視線を外しそれを赤也の方へと向ける。悪魔ってより天使じゃねーかってこれ俺の台詞じゃねえし!ってか赤也気持ち悪!何あの顔!

幸村の口が小さく動いた。そして舌打ちをした。(なんて言ったのかはお察しください。)マズイ。部室が壊れる。真田は状況が分かっていないらしい。たるんでるのはお前の頭かと言ってやりたい。仁王と柳生は平然とした顔で逃げ出そうとしている。何考えてやがるんだ。ルーラ使って頭ぶつけろ。あーあ、たとえば今竜崎来たらどうなるのか、幸村はひとまずにこやかに済ますだろうけど、赤也KYだからな、幸村の目の前で竜崎に抱き付いちゃったりしたりして。そしたらもう死ぬな。部員全員巻き添えで死ぬな。竜崎、俺はお前の事めちゃくちゃ好きだけど、今だけは来ないでほしいな。

「こんにちは!」

来ちゃったよ。

俺とりあえず逃げる。今ならはぐれメタルにも勝てる気がする。素早さ的な意味で。あ、お前らも逃げるの?俺も教会向かって冒険の書を記録しとこうと思って!なんだお前らもかよ!ははっ奇遇だな!
シンクロニシティ



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