うううん、竜崎桜乃は低い唸り声をあげた。こっちとこっちどちらがいいんだろう。二つの洋服を手にとり、交互に悩んでは首を捻らせる。服屋に来るといつもこうだった。優柔不断さがたたっていつまでも選べない。そもそも何故服屋に来ているのか、向こう側で色々と眺めている柳蓮二の姿をちらりと見て桜乃はかっくりと肩を落とした。可愛い服はたくさんある、しかしそれが自分に似合うかどうかはわからない。店員が近寄ってくるが、恥ずかしさによってどもり、居たたまれなさからその場から逃げてしまう。もういっそ柳さんにどっちが似合うか聞いてしまおうか、思いついたものの脳によって即座に無理と却下された。

「決まったか?」
「ひっ!」

背後から声を掛けられたからと言って、なんて声を出してしまうんだ自分は。恐る恐る振り返ると、恐らく呼び止めようとしたのであろう左手が中途半端な位置で留まっている。

「すまない、驚かせたか?」
「ちちちち違うんですすみませんすみません!」

申し訳なさそうに謝る彼に焦りを感じ、ぺこぺこと勢いに任せたまま頭を何度も下げる。違うならいい、と笑う彼を見てもう一度ぼそりとすみませんと口にし、小さく俯いた。

「欲しいものは見つかったか?」
「あ…えと、実は迷ってて…」

さっきは選んでもらうなんて無理と首を振ったが、こうなってしまっては仕方ない。桜乃はこれとこれなんですと腕に抱えていた服を彼へと見せる。ふむ、顎に手を添えそれらをしばらく眺めた柳は、こちらがいいだろ、と花柄のスカートが印象的な白いシフォンフリルのワンピースを指差した。

「着ておいで」
「あ、は、はいっ」

そう促されぱたぱたと試着室へと向かう。なんだか恥ずかしい。カーテンを勢いよく閉める。が、再びバッと音を立てながら開く。正直なんで服屋なのだろう、というかこれは買ってくれるのだろうか、まさか。それは自分で出すけれども。色々聞きたい事がたくさんあった。相手はもう少し離れたところにいるかと思ったら開いたところすぐに立っていて思わず後ずさる。

「や、柳さん」
「もう着れたのか?」
「あ、いえ、まだなんですけど」
「着替えさせて欲しいのか?」
「そそそそんなんじゃないですっ」
「冗談だ」

薄く笑いながらそういう柳の様子に恥ずかしさが最高潮に達し、結局何も聞けずにまたカーテンを閉めてしまった。諦め着替えることにした。

「着れましたー…」

控え目な声でそう伝え更衣室から出る。どうだろうか、似合っているのだろうか。柳さんはなんて言ってくれるのだろう、でももし似合ってないと言われたら。段々とネガティブな方向へと向かう思考をよそに、柳は桜乃を上から下まで眺めて一つ頷いた。

「よし、行こうか」
「え…どこに、ですか?」
「デートに決まっているだろう、まだ始まっていないからな」
「え、あ、じゃあこの服は…?」
「もう支払いは済ましてあるぞ、良く似合っている」
「ええ!?」

"良く似合っている"その言葉は勿論嬉しく思ったが、どちらかというと今はそっちより桜乃はお金についての方へ思考が傾いている。どうしよう払わなきゃと慌てていると柳がふ、と笑みを零す。

「恋人にプレゼントを贈るのはおかしい事か?」
「…で、でも…」
「これは買ってあげたのではない、俺からお前に贈る物だ」
「う…」
「それならば構わないだろう」


上手く言い包められてしまった気がしてならない。申し訳なさと腑に落ちない思いでもやもやしながらも、先程まで来ていた服を入れる大きな紙袋を柳から受け取り綺麗に畳んで詰める。
「よし、ではこれから俺に付き合ってくれるか?」

立ち上がり、差し出された手を小さく握った。
ウェンズデー



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