ああどうやら酔っているようだ。
身体中に巡る大量のアルコールが頭へと辿り着いて、思考を遮る。あんなに飲んだのに酷く喉が渇いて水が欲しかったが、脳裏は銀色のスチールがすれるようにざわめいて眩みまともに立ち上がる事も出来ない。ああせめて外の空気が吸いたい。起き上がらない身体を引きずりながら、青白い月で光る窓へと手を伸ばした。鍵は外れていたそれの下方を、今は入らない力の限りを込める。キィと古い音を立てながら狭く開いた窓枠に手を掛け、全てを開いた。引きずっていた上半身を外にほっぽり出して、腕を広げ仰向けになると気持ちの悪い生温かい風が襲い来る眠気を促す。

月光の眩しさに重くなった目蓋を手の甲で覆った。珍しく感傷的な気分になっているようだ、らしくもないが。

自分の事を優しいと笑う彼女はよく泣いた。
女性の涙なんてなんとも思わない、そのはずだったのに、どうやらアイツだけは違ったようだ。あまりに無垢過ぎる彼女はこんな自分には毒だったのだ。あの白さに触れるたび苦しみが心臓を突く。だけど中毒のように自分は彼女を欲して、離れられない。

自分がまだ子供という得体のしれない生き物だった頃、あまりに純粋だった愛という気味の悪い感情は今はもう消えてしまったようだ。もう、その頃の彼女の笑顔を思い出す事が出来ないのだ。今とは違いあまりに長かった三つ編みの香りを思い出す事が出来ないのだ。その頃に彼女と出かけた公園はもう無くなってしまって、その時に見つけた彼女が可愛いと笑いながら抱き上げた黒猫は、おそらくもうこの世にはいないだろう。

世界は変わっていく。ストロボのように瞬間的に、記憶とは薄れていくものなのだ。

いつかお前は俺の事を忘れてしまうんじゃないか、昔からそんな事を思っていたよ。いつか俺はお前の事を忘れてしまうんじゃないか、そんなことを思ってしまったよ。

空に一筋星が流れた。どうせそうなってしまうのなら、一緒のタイミングがいい。流れ星なんてと笑っていた自分を今だけは殺して、願うように、祈るようにそんなことを想いながら。手放すことなどできやしないかけがえのない日々を、一瞬のように過ぎる時を。誰よりも大切な君を。
クロニクル






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