メールでどんなに想いを込めて文章を打っても、それが全て相手の元へと伝わるわけではない。それならば出来ることなら一日中携帯電話を耳に当て彼女の声を聞いていたいが、そんなことは学生という大変な職業を携わっている自分そして彼女には言うまでもなく出来る筈はない。何故彼女と俺は同じ学校ではないのだろう、あまりに難解すぎるその問いかけの答えが返ってくる事はなかった。今日は殆どの部員になんてシケた面をしているんだ、まるで世界が終ってしまう寸前みたいな顔だと笑われた。お前らに俺の苦しみがわかってたまるかい、皮肉を込めてそう言ってやると盛大に部員達からどやされたが、ああ心配してくれたのだろう。わかっていたさそんなこと。小さくおおきにと呟いた。

帰宅し、まずは相も変わらず可愛いカブリエルに餌をやる。時計の針は7時を回っていたが、空はまだ明るく、うっすらと差す夕日が美しかった。私服に着替えドサリと音を立てながらベッドへ倒れ込む。寝転がった状態で携帯を開き新規メール作成と書かれたボタンを押そうと指を動かしたが、止まってしまった。先程の言葉が脳裏に再生される。世界が終わってしまう寸前みたいな顔てどないな顔やねん。一人突っ込みを入れて、笑ってしまった。

出なかったら、世界が終わる。

こんな自分のお遊びに世界を犠牲にするとは思わなかった。電話帳を開いてカチカチと横へスクロールし、竜崎桜乃の名前を見つける。発信ボタンを押した。プルルルルと弱々しい発信音が耳元で響き渡る。しばらく連続するそれには反応がなく、ハァと自分でも驚くほどに萎れたため息をついて、終話ボタンを押そうとした瞬間、"はい、もしもし"と心の底から待ち望んだ声がノイズ交じりの携帯越しに響いた。


「っ桜乃ちゃん」
「はい、白石さん、どうしました?」
「突然やけど、君が出てくれへんかったら世界が滅亡しとったんやで」
「え!?な、なんですかそれっ」
「細かい事は気にしたらあかん、それだけ言いたかったんや」
「えぇっ、それだけですかっ?」
「そう」


いやいや嘘吐け。本当は話したい事が多すぎて纏まらないなんてそんな、そんな格好の悪い。あまりに無駄が多すぎるのだと、今はそういう事にしておいて。脳内にて絶えることなく再生されていたトランスがぶつりと途切れた。続けるように襲いくる音の洪水が頭の中を支配する。ああ、

君の事、死んじゃいそうなくらい、好きなんよ。

自分の想いの丈をこの程度の言葉で到底表現できるものではないが、今はこれしか言えない。ラッキーな事に滅亡せずに済んでくれた世界は君に会う為に存在しているようなものだ。恥ずかしがりながらどもる彼女の声の心地良さに小さく笑った。
終末ラブコール



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