訳もなく外を歩いていた日、黒い煙が立ち上っていくのを幸村は見た。白い髭を纏った老父は、頭を掻きながら木の棒で燃え続けるそれを弄ぶ様にぐるぐると回す。

そんな光景を見た幸村は、一目散に家へと走る。倉庫の中に閉まってあった段ボールを見つけた。酷く埃を被って咳が止まらない。からからと乾いた咳をしながらガムテープで閉じられたそれに手を掛ける。その場に鋏がなかったから自力で開けようとしたら、変な方へと破れてしまった。中に仕舞ってあったのは、大量の手紙だった。学生の時、貰ったものだ。圧倒的に桃色が多く、重なる封は桜を想わせる。毎日のように送られてくる手紙にはうんざりとしたものだ。しかしちゃんと読んでいた。返事をした事はなかったが。短い愛の言葉、思いの丈を綴った何枚にも渡るメッセージ。勿論嬉しくないわけはない、しかしそれら全て、自分には酷く不埒に見えた。ただ一つを除いて。

一番上に乗せておいたのだ。失くしてしまわないように。送り主は自分が好きな人からだった。中身を見たことはなかった。今思うと何故なのだろう、怖かったのだろうか。あの頃の自分は彼女の言葉一つ一つに多大なる愛と、深い恐怖を抱いていたのだろうか。


緑のマスキングテープで留められた封を開ける。
"あの木の下で、待っています"


手紙を箱へ戻す、火のついたマッチを放り込んだ。さっき見た光景と似た黒煙、消えていくと同時に二酸化炭素が世界を汚していくのを感じた。嗚呼、君は何度俺に癒えない傷を付けるんだ。例えば俺があの日ちゃんと君に逢いに行ったとして、君はずっと俺の傍に居てくれたのかい?そうだろう?きっと彼のところに行ってしまうよ。苦い煙が肺を満たした。

庭の向こう側から子供がはしゃぐ声がする。耳を突き刺すのはまるで大人達が訴えを起こすシュプレヒコールのようにも聞こえた。エゴに聴覚が犯されていく。気持ちが悪い。
Love letter Box





 
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