白いビニールが伸びてぼこぼこと袋から林檎が顔を出す。大量に詰め込まれた林檎は親戚から貰い物らしい。桜乃の所へお裾分けに行くのはいいけれど、せめてダンボールに詰めてくれればいいのに。今はないから袋で持って行ってだなんて、やってられない。

衝撃的な重さに腰がひん曲がる。いつもはなんてことのない距離もやたらと続くように感じる。時々休みながらようやく辿り着いた桜乃の家の玄関。大きくため息をつくのと同時にアスファルトへと勢いよく袋を手放した。衝撃に耐えられない林檎が零れ落ちごろごろと道を転がっていく。待って待ってと大声を出しながら必死に追いかけていると、玄関からひょこりと桜乃が顔を出す。家の中まで聞こえていたという事実を知り酷く恥ずかしくなったが、今は追いかける事の方が優先だ。桜乃も手伝ってくれた。

「騒がしくしてごめんなさい…」
「そ、そんな!謝る事じゃないよ!リンゴわざわざありがとう、お母さんにもお礼言っといてね」
「うん…」
「せっかくだから食べよっか」

よっこらせ、と袋を抱えようとする桜乃の膝がぐらついた。私は慌てて袋の持ち手を掴む。重いから半分持つわ、そう言うと桜乃はありがとうと笑った。

二人で台所まで運んで包丁で林檎を剥いていた。自分もこれには関しては上手く出来る自信があったが、流石彼女も負けていない。どちらが長く綺麗に剥けるか勝負したらびっくりする程におあいこな結果で、同時にふふっと笑いあうとどうしてか胸の辺りが少し痛んだ。皿へと盛った林檎を片手に桜乃の部屋へと向かう。

爪楊枝に刺したそれを口へと運ぶ。正直温い。絶対桜乃も同じことを思ってるはずだろうけど、そんな感情一切顔に出さず美味しいねと素敵に微笑んだ。続く無意識の舌で雫を拭う行動が、ゆっくりと這うように頭を混乱に導く。

腕を掴んで、白い頬にキスをした。ぼんっと赤くなる桜乃を見てけらけらと笑う。こんなの誰でもしてるわよ。

「ふ、普通男の事するものだよ」
「男の子とした事あるの?」
「えっ」

その反応がある事を示すのかない事を示すのか、それはわからなかったけれど。

「ごめんなさい」
「朋ちゃん…?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、桜乃」

今まで隠してたけれど、もう私我慢できそうにないのよ。冗談で誤魔化しても結局辛くて仕方ないもの。そういえばアダムとイブが食べた果実って林檎だっけ。話は難しくてよく分からなかったけど、仮に失楽園に追放されても、その世界で私が桜乃に素直に恋をする事が出来るのならば、そっちの方が幸せかもね。そんな言葉さえ叶ってしまうのではないかと期待してしまう彼女の表情に、襲う後ろめたさが胸を焦がした。
パラダイスロスト



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