惑星のありか



今日はいつに増しても暑い日で、教室から見える外の景色はゆらゆらと揺らめいていた。アコールが教卓の前に立ち、いつものように飛翔の杖を振りながらおっとりとした口調でぷよについて話す。後に続くポポイは酷くだみ声だ。腹話術とは思えない。眠気を誘うアコールの声にシグは一つあくびを噛み殺す。ふあ、むにゃむにゃ。眠い。ぶんぶんと首を振りそれをどこかへ追いやろうとしたが、誘惑には勝てない。気付けば肘をついて、外の陽炎のように揺れながら堪え切れない瞼は落ちていった。

かくん、がくん、と自分の顎が肘から落ちる二段攻撃に驚き目を開いた。条件反射にきょろきょろと周りを見渡すと教卓に立ったアコールと目が合った。なんてことなくいつものように微笑んでみせたが、何故だかその笑みに"しまった、こわい"そんな事を思ってしまった。やってしまった。などと一人呟いていると校舎内に鐘が鳴り響く、彼女はぼふりと本を閉じ「それでは今日の授業はここまでにしましょう」その一言を残し教室から去っていった。

授業が終わった途端、背後から話しかけられた。アミティだ。

「シグ!」
「アミティ、なに?」
「さっきの時間、寝てたでしょ?」
「うん、つい」
「もー、今日の先生のお話、とっても面白かったんだよ。今日は流れ星がたっくさん見られる日なんだって!」
「へー」
「興味ない?」
「んー、見たい」

その返事を待ってましたというように目をキラキラと輝かせて、"じゃあ今日一緒に見ようよ!"と誘われる。"いいよ"あまりに淡白な返事だが、それでも嬉しそうに笑うアミティを見て、ぽかぽかとする胸の辺りが凄く心地よかった。

「願い事、何しようかな…欲しいものたーくさん、食べたいものも、あ、あれもいいな。うーんでも…」

この間授業で使った紺色の絵具みたいな空の色。その色に混じって、オーラのみたいな薄い雲が掛かってる。そんな空の下、アミティは指を折り曲げて願い事の数を数えてみる。シグはぱちくりと瞬きを数回、沈黙が走る。"こんなに叶えてくれるものなのだろうか。流れ星一つ流れる度に一個?まあせっかくの流星なんだから、太っ腹に行こうよ、うん!"あまりに大きな独り言。シグは耳を傾けつつ空を眺める。チカッと光ったと思ったら一瞬のように光の筋が消えていく。人差し指を伸ばした。

「流れた」
「ええっ!?ガーン…見てなかったよー…お願いしたの?」
「した」
「ほんと?なになに?何にした?」

願い事は話すと効果が無くなる。なんて事を聞いた事があったが彼女の溢れんばかりの好奇心を相手には勝ち目がない。目に先程の星屑を入れたんじゃないのかと聞きたくなるほどきらきらした目でシグに聞く。

「教えない」
「えー!?」
「すごくはずかしい」
「全然恥ずかしくないよー!教えてよ!」

そんなに気になることなのかな。僕はそっちの方が気になる。内心そんなことをぼやきながら、アミティの頬を両手で挟む。

「むぅっ」
「アミティとずっと一緒にいたい」
「へっ」
「そうお願いした」
「な、なな、なにそれ!」

ずざざざっーと音がした。わたわたと焦りながら、居場所の無い手を振り回し、顔を真っ赤にしながら勢い良く後ずさっていく。

なにそれって、そのまま。

そんな会話を繰り広げている間に暗く染まった空が一瞬明るくなった気がして、上を見ると。夜空から零れていくかのように淡く白い光が何本も何本も落ちていく。あまりの光景にアミティはぽかんと口を開けたまま空を眺める続ける。思わず願い事するのすら忘れてしまいそうなほど引き込まれていく景色だ。シグはそんな彼女の横に立ち、先程の願いをもう一度心の中で呟く。隙アリとでも言うように、がら空きだったアミティの左手をぎゅうと握る。アミティはそれに驚く事も忘れて、感嘆の声を上げている。

「僕は君と一緒にいたいんだ」

誰にも聞こえないような声で言った。僕はそれだけだ。ああそういえば流れてしまった星はどこへ行くんだろう。そこら辺に落ちちゃってるのなら空へ帰してあげなきゃ。だけどちょっとおいしそうだな。齧ったら甘い味がしそう。もしその星がもう空へ帰る事が出来なくなっちゃってたら、どうせなら一口だけ、齧らせてもらいたいな。怒られるのかな。願いはもうないから、そんな事ばかりを考える。だんだんと我に返り熱を持っていくアミティの手の温度が、たまらなく嬉しかった。


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