レインデイ



透き通った窓ガラスに蒸気みたいな雨が吹きつけてまるで擦りガラスみたいだった。ぽつぽつと束になって落ちてくる音が微かに聞こえる。雨は好きじゃない。虫を取りに行けないから。せっかく今日は木に塗った蜂蜜を確認する予定だったのに、残念だ。仕方なく図書室へ向かう。あそこには前捕まえたカブトムシがいる。エサをあげよう。廊下を歩くと少し湿ってキュッキュと音がした。扉を引くと目に入ったのは良く知るクラスメイトの姿だ。後ろ姿でもよく分かる真っ赤な帽子を被ってる。うーん、うーんと脚立のてっぺんで爪先立ちをしている。支えるものがなくふらふらとしていて少し危ない。アミティ、声を掛けるとこちらを向いた。あっシグ!なんて笑うけど途端にバランスを崩しそうになって、慌てている。

「あはは、危ない危ない」
「どうしたの」
「本を取りたいんだけど、あと少し届かないんだよね…」
「とろうか」
「ううん、大丈夫!ここまできたんだから自分で取って見せるよ」
「そうか」

意地になっているようだ。心配で、脚立を両手で支える。ぐらぐらと揺れて怖い。ぎりぎりまで足先に力を入れて爪先立ちをしている。あとちょっと、あとちょっと、と必死に力む。

「届いた!」


やったーと喜ぶアミティの手には本。しかし喜びで油断したのか手からつるりと滑る。落ちる本はスローモーションのようにも見えたのに避けれなくて、物の見事に僕の頭にぶつかった。すごく痛い。頭の周りを小さなひよこがくるくると回っている。し、シグ!驚きの声をあげながらアミティが脚立から駆け下りてきた。僕は頭を擦りながらちょっと恨めしい気持ちで本棚を見る。そして目に入るのは先ほどの本の隙間。もたれる場所を失くした隣の本と隣の本がぶつかり合って、木で出来た本棚の縁から溢れ出す。僕は慌ててアミティの腕を掴んで、ぶつからないように腕の中へ閉じ込めた。

ドサドサドサと勢いのついた本が何度も僕の背中へと激突する。角が当たったりすると痛い。

「シ、シグ!大丈夫!?」
「うへ、けほ、だいじょうぶ」
「ほ、本当に…!?すごくぶつかってたけど…」
「だいじょうぶ。アミティに当たらなかったから、よかった」
「え…わ、ああっ」

その言葉に目をぱちくりさせたと思ったら急に腕から抜け出して、遠く離れてしまった。顔が真っ赤になって息が切れている。どうしたのだろう。

「ご、ごめっシグ!あ、あ、ありが、とうっ!」
「あ」

じりじりと後ずさってると思ったら、危険を察知した猫みたいにぴゅううっと一瞬にして図書室から出ていってしまった。どうしたんだろう、もしかして本ぶつかってしまったのかな、全部庇ったつもりだったんだけど。ぽりぽりと頭を掻きながら辺りに散らばった本を見つめる。そういえばアミティ本忘れてった。届けなきゃ、気になること、聞きたいこともあるし。カブトムシは後回し。僕は重たい魔導書を抱えてアミティが走り去った後を駆け出した。


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