マーマレードピリオド



あたしのひび割れた唇を見つめたと思ったら、手を引っ張られて椅子に座らされた。おでことおでこがぶつかりそうなくらい近い位置でレムレスがにこーっと笑う。そんな彼の瞳の色は閉じられててわからない。相変わらずとっても胡散臭い人だ。ちょっと目を閉じて?なんてるんるんとしたいつも差しだすキャンディみたいな甘ったるい声で言う。あたしは何をされるんだろうとただならぬ不安を抱えつつぎゅっと瞳を瞑った。知らず知らずに力が入って噛み締めている奥歯の辺りが痛い。

ぐりぐりと唇に何かを塗りたくられている感覚に顔を引きつらせながら片目ずつ恐る恐る開いていく。そこにはさっきと同じように笑うレムレス。彼の手には小さなポット。重たく違和感のある上くちびると下くちびるをもぞもぞと擦り合わせる。舌先でちょろっと舐めると甘いチョコレートの味がした。

「チョコレート味のリップクリームだよ。おいしい?」

ふふふ、と楽しそうに茶色く固まったポットの中身を見せてくる。確かにおいしいけれど舐めて大丈夫なのかな…とあたしはそこが心配だった。

「味見しちゃえ」

飛び跳ねるような思いつきを口にしたとあたしに近づいて、ちゅーをされた。いきなりなんで。それはそれは驚いて静電気でも起きたみたいにあたしは跳ねてしまった。必死にもがいて離れようとしても全然駄目。

「ふっ、…う」

息がしづらくなって、ホイップに埋もれていくみたいに頭がぼんやりしてきた頃にようやく放してもらえた。最後にぺろりと舐められた感覚がぞわりと鳥肌と共に全身を漂う。

「ごちそうさま」

平然とした顔、それどころかいきいきした表情で言ってくれる。耐えきれず思わず言葉より先に動いてしまった腕。ぼかっと鈍い音がした。

「いたたた」
「レムレスのバカー!」

吐き捨てるように叫んでその場から逃げ出す。色々と突然すぎた為か、予想だにしない量の涙がぼろぼろぼろぼろ頬を伝う。ぐしぐしと腕で口を拭う。リップのチョコレートの香りとレムレスのオレンジの味がする舌。混ざってわけがわからない。ああでも背後から足音が、追いかけてきてくれた。そんなことにちょっと安心してる自分が、凄く悔しくて仕方がなかった。


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