シグが魔物の話、暗いというより痛い




何処かで誰かが言っていた。昨日より今日は素晴らしい日だと。じゃあ人にとって最後の日ってどんな一日よりも幸せな日なのね。そう笑っている人がいた。シグは果てない空を眺めながらそんな事を思い出した。よく晴れた綺麗な空だ。空を見ると自分を思い出すと言ったアミティの顔がぼんやりと浮かぶ。

自分の肩から繋がった左手は腐った林檎が潰れるような音を立ててぐずぐず動いていた。神経が無くなってしまったかのように言う事を聞かない。そもそもこれは自分の腕なのか。もはや原型がない。指先は確認する事が出来ない。横を向いた先にすぐ寝ているのだ。そこを突き破って自分の腕の先は存在する。どうなっているのか、ここからでは見えない。ただでさえ赤くて大きくてヘンでムシが取りづらい。良い事が全くない損な腕だったのにここまで迷惑な代物だとは。でも一番よくわかったのは一番ヘンだったのは自分自身だったようだ。途中の部分が酷く生温かく洗って流してしまいたかった。「誰か僕をお風呂に入れてくれないかな。」そう言っては見たものの残念ながら誰にも聞こえないらしい。

動けないから仕方なく姿勢を変える。太陽が網膜に貼り付いて瞼が痛い。視界を黒点が支配する。その景色は自分がよく探していたムシによく似ていて鳥肌が立った。嬉しい悲鳴が口から零れそうだった。

「ねえお日様笑ってる、僕ら見て笑ってるんだ。見てよアミティ。ムシがいるんだ。大きな。捕まえたよ。アミティも一緒に育てよう。エサを上げるとすごく喜ぶんだ。あ、それと今日、僕、アミティと一つになれた気がする。どうしてかわからないけど、僕そんな気がするんだ、ねえアミティ。今日はいい日だよ。聞こえる?アミティ、みんな笑ってるよ、ねえアミティ、笑って」

いつの間にか黒いフィルターが掛かったみたいになっていた世界は太陽の白い明るさしかわからないというのに頬がかゆい。暇を持て余してピクピクと動いている右手の人差し指に力を入れて掻こうとすると温く濡れていた。一体どうしたというのだろう。嬉し泣きだろうか、そうか。ああ本当に素晴らしい日だ。


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