ふとした拍子に足を止めた切原赤也は愕然とした。ついこの間まで上を向いてさんさんと陽の光を浴びていた向日葵が見るも無残にげっそりと茶色く枯れ果て、おじぎ草かの如く下を向いているではないか。

その時彼は部活帰りだったが、色々と焦りが込み上げてくる。夏の終わりとはこんなにも焦るものだったか、と。まず宿題だ。気付けばもう指で数えられる程度にしか休みが残っていない。これに関しては毎年似たようなもので、去年もこっぴどくどやされた。先生ならともかく何故か副部長である真田に。やべえやべえとアスファルトの上頭を抱えるが、まあそんな事は一瞬だなんとかなるの一言で本人の中では案外簡単に片付いてしまうものだ。あっさりしている、実際なっていない所が問題だが。

何より彼の中で大事だったのは、恋人である竜崎桜乃と夏らしい事を何一つしてないという事実に、とてつもない焦りを感じてしまった事である。夏休みが始まって間もない頃、切原は一人部屋にて頭の中に込み上げる日々のデートプランを妄想しては頬を緩めていたが、実際の所忙しい部活でそんな時間も取れるはずもなく連絡しては今度出かけよう今度出かけよう、済ましていたのはそんな言葉だけであった。


(あーヤベェ…時間ってこんな経つの早かった…っけ…)


ずっしりと全身に掛かる圧力が何倍にもなったかのように重くなる。やるせなさと秋を感じさせる涼しげな風に思わず白目を引ん剥きそうだ。焦点の合わない視界で見る景色は色褪せたフィルムで撮る古ぼけた写真のようで、鞄がずりりと肩から落ちてドサリと地面へ直撃した。やってきた沈黙と共に脳内には大量のアドレナリンか。半開きの鞄のファスナーに手を突っ込んで携帯を取り出す。位置さえ覚えてしまっているアドレス帳の「桜乃」と書かれた所から勢いよく通話ボタンを押して耳に当てた。

『はい、もしも…』
「桜乃!?今から出かけよう!迎えに行くから、デートしよう!」

相手が名乗る間もなく勢い任せで突っ走った。ああ仮に掛け間違えていたらどうするつもりだろうか。そんな事考える余裕すら今の切原にはあらず、相手の返事を聞かぬまま電源ボタンを押して制服のまま排気ガスを出しながらやってきたバスに飛び乗った。微妙な時間帯のスカスカの座席に腰掛けても落ち着かず足がうずついている。

ああ何をしようか、海へ行こうか、夜遅くなったらあいつ怒られんのかな、婆ちゃん竜崎監督だもんな…怖いだろうな。まあそのときは一緒に怒られるから、我慢してもらおう。今日は俺に付き合ってもらうんだ、海へ行って星を見よう。本当はもっと遊園地とか行きたいけどお金がないから、きっとアイツならどこでも喜んでくれる。きっとそうに違いない!

ようやく発車しだしたバスから見えるのは先程の枯れ果てた向日葵、興奮冷めやらぬ今の切原には何もかもが酷く綺麗に見えた。
素直な夏が降ってくる



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