夜を駆ける



いつもと打って変わった街並みの静けさと青黒い靄が全体に撒き散ったかのような暗さに改めて深夜というものを実感した。セットしなかった時計の針が指す三、冴えてしまった頭は込み上げる好奇心、勢いのまま足を外へと誘ったのだ。アミティはクリーム色の石で出来た地面に薄らと色付いた部分だけを踏むように、軽快なステップでくるくると動き回る。微かな小さな石と靴が擦れる音も静かな街中では嫌に気になって聞こえた。ひとしきり夜中のワクワクを発散させた所でズボンのポケットに手を突っ込んで、ふぅと息を吐く。朝方のひやりとした肌寒さが嫌でも夏の終わりを浮かばせた。

「やあ、こんな夜遅くに会うなんて、今日は不思議な日だね」
「レムレス…」

背後から聞こえた甘ったるい声、くるりと振り返った先、薄暗い視界の向こう側に見えたのは暗さと同化してしまいそうな帽子と、閉じられた瞳。深い緑を思わせる魔道士の姿。

「こんな時間にどうしたの?」
「その言葉、そっくりそのまま返したいな…」
「あたしは目が覚めちゃったんだけど、ちょっと楽しくなっちゃって、外に出てきちゃった」
「そうなんだ」

でもやっぱり誰もいないから寂しいなって思ってたんだけどまさかレムレスに会えるなんて思ってなかったから嬉しいよ。暗さをも吹き飛ばしてしまいそうな楽しそうな声で話すアミティに、苦笑が零れる。嬉しいけれどやっぱり女の子が一人夜を歩くのは危ないんじゃないかな、生まれた言葉は彼女には意味を成さないと分かっている、落とした視線に混ざり地面へと消えた。

「こんなことを話している間に夜明けの時間だ。綺麗に見える場所まで一緒に行こう、世界の明るさを追いかけに行こう、アミティ」

そばにおいで。残った言葉はそれだけで、目を丸くしたアミティが自身の汗が滲む手で不安げに、しかし引き寄せられるように彼の右手を掴むのにはそう時間は掛からない。レムレスは頬を微かに上げて小さく笑った。


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