扉の様な大きさの窓をがらりと開けて星空を眺めていると後ろから伸びてきた手に抱き締められた。驚いた桜乃は手をわたわたばたばた暴れさすも全く離す気配はない。その腕の正体である財前光は外から入ってくる乾いて少し冷えた空気を吸い込みながら彼女の背中へと頭を押し付ける。まだ濡れている髪の毛の感覚がぺたりとあった。桜乃は掴まれた腰を必死に回して後ろを向く、彼の首へ掛かったタオルを抜き取り黒髪光る頭へと被せた。

「ちゃんと乾かさなきゃ風邪引いちゃいますよ」

言いながら手を動かし髪をわしゃわしゃと拭いてやる。見た目に気を使う人だからとドライヤーの入ったカゴを取りに行こうとすると、ぎゅうと腕の力を強められた。

「ど、どうしたんですか?」
「今は、いい」
「え、でも…」
「今はいい」

やけに元気がない。いつも冷静な人ではあるけれど、なんだか今日は様子がおかしいとても落ち込んでいるように見える。

「桜乃」
「はい…」
「結婚しよう」

思わずうっかり流れで「はい」と言いそうになってしまった。今彼はなんて言ったのだろう。とてつもない事を言われた気がする。彼は薄暗く影になった床へ俯いてしまっていて様子がわからない。

「あ、あの…」
「嫌?」
「あ、い、嫌っていうか…」
「一緒に暮らそう、離れるの嫌や」

彼は明日の朝東京を発つ予定だった。ひょっとするともしかすると寂しかったのか。先程より腕の力が弱くなっているのを感じてなんだか失礼だと思いながらも可愛いと思ってしまって、一度そうなるとなかなか止まらない。思わずくすりと笑ってしまった。途端彼はガバッと凄まじい勢いで顔を上げる。

「真面目に言うとんねん…」
「ごめんなさい、嬉しいです」

怒られるかとおもったら思い切り落ち込んでしまったようだ。いつもの彼らしくないなと思ったり自分は幸せ者だと感じたり、色々おかしくてつい笑ってしまう。拗ねたように何も話さなくなる彼に慌てて謝っても盛大に無視されてしまう。中学生のころの彼を思い出した。

「私はどこにも行きませんから」
「…」
「だから離れてても大丈夫ですよ、焦らなくて大丈夫です」
「前知らん男にのこのこ着いてきそうになったのはどこのどいつや」
「うぅっ、そ、そこを言われたら私確かに頼りない…?」
「頼る場所があらへんわ」
「ごめんなさい…」

「もう少し待ったるから、そん時までにはちゃんと受け入れ体勢作っとけよ」

彼の照れ隠しの言葉に何度惑わされただろうか、だけど今回だけはわかった。財前さん顔真っ赤だもの。だけどわざと惑わされてしまうというのも、たまにはありかもしれない。
さびしさに寄せて



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