シグちょっと病んでる






ぎゅっとされるのは嬉しいはずだというのに、彼の腕はやけに冷たく、何故か手放しに喜ぶ事が出来なかった。彼はあたしの名前をよく呼んだ。「アミティ」連呼されるその名は自分へと告げられる物ではなく、まるで独り言のようで。

「シグ」
「なに?」
「君は、誰を見てるの」
「どういうこと?」
「あたしは、シグの瞳に映ってる?」

不安だった。愛というものはこんなにも感じ取ることが難しいのだろうか、それともただ単にシグは別にあたしのことを好きでもなんでもないのではないか。それならば抱き締める事もないのかもしれないが、自信なんてちょっとしたことで簡単に失われてしまう。シグの二色の目と視線がぶつかった。どうしてと聞きたくなるほど悲しそうな色をしていた。だけどその言葉はあたしの口から発されることはなく、動いたのは目の前の彼の口。

「どうして?」
「え?」
「どうしてそんなこと言うの?」
「え」
「ぼくは君の事、こんなに想っているのに」
「あ、」
「どうしてそんなに悲しい事を言うの?」
「シグ」
「僕の目には君しか映っていない、僕の世界には君しかいないんだ」
「ごめ、ごめんシグ、ごめんなさい」
「アミティの名前を呼ぶと、苦しくて、悲しくて、名前を呼んでも君は僕のものじゃない、僕の世界にはアミティしかいないのに、君は僕のものじゃないんだ」

悲しい声だった。胸の奥底を抉られていくのと同時に目が泳いで、口が震えるのがわかった。ぎゅっと下唇を噛み締める。あたしを受け入れる君は世界を否定していた。悲しくて仕方のない、その事実が怖くて、どうして。散々シグから受け取ったその言葉があっけなく自分の口から零れ落ちる。

「もっと愛するもの、あるはずでしょう」
「ないよ」
「シグ、どうしちゃったの」
「僕はアミティが大好きなんだ」
「ねえ、シグ、シグ」
「泣かないで」
「シ、グ」

震える口はまともに動いてはくれなかった。ぼろぼろと伝う涙は生温く、拭っても拭っても溢れ出てくる。

「君と一緒にいられればそれでいい」

腕をやさしく握られ引き寄せられた。言葉とともに降ってきたキスは冷たくて、暗くて深い、果てのない海を思わせた。


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