意地悪してみる 今日の自分は冴えてる。 閃きというのはいつになく突然起こる物だ。ナルトは先程注文して受け取った団子を吹き飛ばす勢いで目を見開いた。彼女の性格は所謂、素直になれない物だと言うのは分かっていたが、それでも自分はめげることなくアピールを続けていた。いつもウザイだのなんだのとあしらわれるが今回はそうもいかないだろう。ナルトは上がらずにはいられない口角を手の平で隠しながら里の何処にいるかもわからないサクラの姿を見つめた。 「サクラちゃん」 「なに?」 「あのさ…」 モーターでも付いているのかというような全速力で足はサクラの元へと一直線に向かう。運よくあっさりと見つかってくれた彼女の足元を数秒見つめ、表情を作った。沈黙の間を残して再び顔をあげる。一体何と言いたげな瞳と視線がぶつかった。 「オレさ…」 「だからなに、用があるなら早く言ってよね」 「サクラちゃんの事、嫌い」 「…は」 ぽつぽつと告げられたそれらを言うのは心苦しかったが、予想をはるかに上回るサクラちゃんの表情。見事な演技力、流石俺。 拍手喝采が起こる内心にほころぶ頬を必死に堪え、一体どんな反応をくれるのか、ここまで言われていくらなんでも適当に受け流すなんてことは出来ないだろう。そんな事を考えもう一度彼女の方を向く。 「…」 「…えっ」 「ふ、」 「ふ?」 「ふざけんじゃないわよ!」 「!?」 その瞬間、景色が物凄いスローモーションで飛び抜けていくのをナルトは見た。頬がめり込むのを感じた。それを労わる時間などなく、自分の体は壁に激突し全身がえげつない痛みに襲われる。見上げた空が青かった。 「…アンタ」 「うっうわーごめん!ごめんってば!」 手をバキリバキリと鳴らしながら空を覆ったのはサクラの顔だった。それはそれは恐ろしいその表情にナルトは勢い良く起き上がり、膝を擦りむく勢いで土下座をした。謝罪の声が里に虚しく響く。 「サクラちゃんごめん…」 「…」 「アレ?」 もうとにかく謝らなければ、考えなしに上げ下げしていた上半身に違和感を感じたのは彼女の声だった。途切れ途切れのそれはなんだか弱々しく、そろりと目をそちらへ向けるとそこにあったのは鬼の形相ではなく、鼻をすんとさせ目にたまった涙を強く拭うサクラの姿だった。開いた口を塞ぐのも忘れながらナルトはそれを見つめた。 「なんで泣いて…」 「うるさい!バカナルト!」 「ご、ごめ…」 「っ…」 「そ、そんなに嫌だった?」 「何が」 「オレに嫌いって言われるの」 「な、何言ってんの?アンタなんか大嫌いよ!」 そう叫びながら、傷付いてしまうのではと心配になるほどごしごしぐしぐしと動くその腕を掴んでいたのは無意識だった。 「ごめんってば…サクラちゃん」 「だから、関係ない…」 「やっぱ、オレ好き」 「…やっぱって何」 「ずっと好きだってば」 「…バカナルト」 言っても目も向けてくれない、バカだと言われたし、やっぱ嫌われてんのかなあ。 自分らしくもないが掴んだ手すら後悔する。無かったことにするように離してしまった。いつに増してもやってしまった感が大きい今回の失敗が重石となって肩へ圧し掛かる。テンションの下がりっぱなしの空気を打ち破る術を持ち合わせておらず、頭上に雷雲でも掛かっているかのような気分だ。 「ナルト」 「はい…」 名前を呼ばれ干からびた顔で返事をする。相変わらず睨み付けるような視線ではあったが、彼女の右腕が伸びていた方向は先程まで自分が立っていた場所。つまり鉄拳によって吹き飛ばされる前にいた場所だ。 「あれ、なに」 「え?ああ…さっき買った団子だってば…」 指先が示すのは地面にぐしゃりと落ちた白いビニール袋だった。存在を忘れていた、中に入っていた団子は無事だろうか。 「アンタと話してたら疲れたしお腹空いたから、あの団子くれたら許してあげる」 「…え、あれ落ちて…」 「地面直に落ちたわけじゃないでしょ」 「あ…うん、うん!」 駆け足で取りに戻る。中を覗くとプラスチックはひしゃげていたが中身は無傷だ。ほっとした思いでそれを差し出すと奪うように受け取って、仕方ないからとそっぽを向いた。そろりと許してくれたの?そう尋ねるとうっさい!ウザい!といつものようにあしらわれた。しかしその耳がほんの少しだけ赤くなっていたのを見逃す事など出来ようものか、再びしつこく尋ねると"また殴るわよ"そう脅された。 rendezvous様へ |