安藤の口調がおかしい




突然隣を歩いていた背を丸めたと思ったら勢い良くくしゃみをした。スカートを捲し立てる風がその声を遠く遠くへ運んでいく。濁った声で声をあげてしつこく鼻を啜るアミティの様子に慌ててティッシュを取り出すと、二枚ほど引っ張り出し豪快に鼻をかむ。

「風邪ですかね」
「えっ違うと思うよ〜誰かが噂してんだよ」

笑いながら丸めたティッシュはそばにあったゴミ箱へと投げ込まれたが軌道を外し地面へと落ちる。あれれと調子の悪そうにそれを拾い、捨て直した。誰でもやるのかもしれないが、少なくとも彼女であるから感心する。決して彼女が普段ポイ捨てをし、それをそのまま放置する人物だからという意味ではなく、単純に私が彼女の事を抜けて素晴らしい人間だと思っているからの事であると説明しておこう。

「噂だったらアミティはくしゃみしっぱなしだ」
「えっあたしそんな噂されてるの?」
「ええ、それはもう」
「うわ〜なんか怖い」

言い方によって相手に恐怖心を与えるのは簡単だった。実際はアレだ。いわゆる皆彼女の事が好きだから困っているというなんとも馬鹿馬鹿しい内容だ。そんなことをいちいち教える必要もない、利益も何もない。

「変な事考えなくていいよ、それより風邪には気を付けた方がいい」
「大丈夫!」
「何を根拠に」
「元気だから」
「元気だけで風邪にならなかったら皆ピンピンしてるよ、自分の体内バロメータなんて大して役に立たない」
「ガーンッ」
「アミティの取り柄は確かに元気な所だけどそこで無茶をし過ぎれば誰だって体調を損ねるよ」
「そんな無茶なんて…」
「皆に構われてそれ全部相手にしてるから、見てて冷や冷やする」

告げた冷や冷やする。という言葉は"いつ倒れるか分からないから"という意味が大半を占めているが、少しではあるがそれに嫉妬心というものが含まれている事を私は隠すつもりはない。まあアミティ本人に伝えるつもりはないけれど。

「まあ無茶をし過ぎるのも私はいいと思うよ」
「いやあたし無茶なんて」
「その場合、私は利益があるからね」
「え?なにそれ」
「秋は林檎が美味しい季節だから、摩り下ろして食べさせてあげるよ」
「ん?どゆこと?風邪引いたら看病してくれるってこと?」
「そう」
「あ!やっさしい!ありがとうりんご!でもりんごにりんご食べさせてもらうって変なの!」

ケラケラ笑いながら先へ進む彼女の足取りが先程より幾分か軽やかになっているのを私は見逃さなかった。これが指し示す物はつまり喜びであり、私に看病してもらえるという事は彼女にとって喜びであると。私は思わず風邪を引いてほしいという何とも不謹慎な願いを空へ訴えた。願い事なんてただの自己陶酔であると知りながらも、今は願わずにはいられない。そして思考が辿り着くのはやらしい結論であったが、それについて話すのはまた次回にしておこう。


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