右腕くらいくれてやる



びゅうと吹いた風が肌を掠めた。寒さが苦手だ。だからと言って暑さが得意なわけではないが。いつも通り見事な遅刻をかますカカシを待ちながら、秋や冬は感傷的になってしまったりしていて嫌だとサクラは鼻を啜った。

「そーお?俺ってば秋も冬も好きだってばよ」
「アンタはどの季節でも元気バリバリだからなんでもいいんでしょ」
「そんなことねえってばよ!秋はアレ!誕生日があるし!」
「うわっ…現金なやつ…」
「ひでぇ!サクラちゃんだって誕生日好きだろ!?」
「えー…」

いずれ自分も年を取ってしわくちゃになるのか、そんな事を思うと誕生日なんて来なくてもいいような気もしてくるが。(でも師匠はいつまでもキレーだしなあ…いやあれはズルか…)ああ内心とんでもないことを思ってしまった。師匠にこんなことを考えていることがバレたら、想像するだけで恐ろしい脳内を慌てて切り替える。少なくともまだ周りから華やかに祝ってもらえる年齢ではあるので、好きなんだろう。まあ言ってしまえばプレゼントも貰えるし、結局大事なのはそこかもしれない、きっとそうだ皆そうだ皆現金だ。

「オレ、最近皆におめでとーって言ってもらえるようになったんだ。それにアイツらだけじゃなくて。大して喋ったことないオッサンとかおばさんとか、ちっちゃい子供とかも、どっから人の誕生日なんてそんな情報手に入れてくんのか知らねーけど」
「そー、人気者はいいわね」
「へへ、でしょ」

鼻の下を人差し指で擦りながら照れながらも少し自慢げにそう言うナルトの言葉を皮肉で返す。しかしそれに反するように容赦なくつきりと痛んだ胸の辺りは彼の過去を思い出したからだろう。

「アンタの誕生日いつだったかしら」
「えっ覚えてくれてねえの?」
「記憶力を無駄使いしたくないの」
「うう…ひっでえサクラちゃん…10月10日だってばよ…」
「そう、もうあと何日もないのね」

誰よりも知識を仕入れることが出来る彼女の頭だ。仲間の誕生日くらい覚えていないはずがなかった。しかしなんとも悔しい話だ、自分から進んで祝うなどというのは。しれっと指で日にちを計算するともうすぐ側にいて、サクラは目を瞑り静かに息を吐いた。

「誕生日くらいデートしてあげるわ」
「…へ」
「…嫌ならいいけど」
「え?今なん…え…デート!?デートって言った!?」
「うるさい!でかい声出すんじゃないわよ!」
「やったー!誕生日にサクラちゃんとデート!」
「だからうるさい!」

デートしてあげる、過去に何度か言ったことある台詞ではあったが今回は自信が無かった。今までのそれは全て自分のためであったからだ。今回は違う。そんな重りを抱えながら、出た言葉だった。しかしそんな心配など全く無駄のようだった。両腕あげてバンザイをするナルトが恥ずかしくて叱り付けても全く聞き入れない。浮かれに浮かれようやくのろのろとやってきたカカシに全部ベラベラ話そうとするものだから一発頬へと拳を入れてやったらなんとか静かになった。

「別に祝ってくれる人なんていくらでもいるでしょ、無理しなくてもいいのよ」
「するわけねーじゃん!今から楽しみすぎてオレってば夜も眠れなさそー!」
「…ばかじゃないの」
「へへっ」

誰よりも自分といられる事をこれほどまでに喜んでくれるというのは幸せなことなんだろう。思わず零れそうになる緩んだ笑みを必死に言葉と呆れ顔に隠した。


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