ストレンジブルー



シグは季節をまるで無視して異質に咲き乱れる紫陽花に埋もれて眠っていた。よりにもよって先生はのんきにアミティに彼を探しに行かせようとするものだからアミティが向かったら彼の思うつぼではないかと私は冷静にそう思ったわけだ。
「あなたを迎えに来ましたわ」
告げると些か不満そうな顔で自分の顔を睨み付けた。まるで死んでいるような体勢から時間を掛けてゆるりと起き上がると泥にまみれた服と腕を適当に払う。しかし立ち上がることはせず潰れたあおい花を気にしながらわざとらしくこちらを見た。

「ラヘーナ」
「どうしてお前なんだとでも言いたげな顔ですわね、しかし生憎アミティさんは都合が悪いご様子で」
「…アミティは?」

彼は喧嘩を売っているのだろうか、それならば幾らでも買ってみせるが。その憎たらしさアミティさんにも少しは見せてやりたい。誰の前でも腹立たしいほどにぼけぼけとしていることに変わりはないが、アミティさんが居るか居ないかで全てにおいての彼の行動が決定的に違う事を知ったのはつい最近の話だ。

「私は貴方が恐ろしくて仕方ありませんわ」
「会いに来なければいい」
「その恐ろしさ、アミティさんに向けられたらとても困りますので」
「ラヘーナ関係あるの?ラヘーナアミティのこと好きなの?ラヘーナ女の子だよね?」

名前を間違えられたまま連呼される事よりも何より私を怒りへと導く言葉を平然と言ってのける彼に思い切り鉄拳を喰らわせてやりたかったが。それよりも先に逃れる足が動いていた。私の言葉など聞く耳持たずなようで、彼の口が確認出来るか出来ないかのレベルで「シアン」と動いたからだ。彼がいつぞやに言った青っぽい青というのにはあまりに程遠い、群青のような光が私を包もうとする。

「この程度の魔法で私を倒そうなんていい度胸ですわね」
「ラヘーナにはそれくらいで十分だと思ったけど、違ったのか」
「馬鹿にされたものですわ」
「だってさっき僕の事怖いって言ったじゃないか」
「貴方の魔法なんて蚊みたいなもの」

「貴方はいつかその腕でアミティさんを傷付ける。」これ以上話しても無駄なのは分かっていた。もう連れて帰るのも諦めてその場を離れようと決めたとき、呆れたまま見送り程度に振り向くと。一瞬にしてサアアと血の気が引いていく感覚が足から全身を襲って動けない。

「アミティ、ラヘーナはアミティが好きなのか、へー、ヘンなの、アミティ知ってた?でも僕の方がアミティのこと好きなんだよ、知ってた?」

燻ったようにあかい左手を眺める同じ色をした瞳が、不思議に光っている事がとてもおぞましく、ひしゃげた紫陽花は萎れていた。その左手で彼は彼女に一体何をするつもるなのか。ここから立ち上げる事さえ出来ないようにしてやれたらどんなにいいか。嗚呼、圧倒的力量不足をこれほどまでに虚しく思ったことはない。それと彼は一体誰と話しているのか、呆れ返っても彼の言葉は思った以上に精神的に強かったようで、しかしどんなに怒りを感じても立ち向かう事さえ出来ない私は彼女の身を心の奥底から案じながらそんな事を考えていた。


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