びしょ濡れ侯爵とアリスの混乱
「……雨」
ついさっきまではからっからに晴れていたのに外は大雨。
もう梅雨も近いということなのだろうか。
「傘、持っていったのかな…」
骸様たちは数時間前に外へ出ていったきり帰ってこない。
これだけ降れば、びしょ濡れになってしまってるはずだ。
彼らが帰ってから風邪をひかないように部屋を暖めようと立ち上がると、
「ただいまぁー……」
今のは犬の声だ。
私はすぐさま玄関まで走って行った。
「お帰りなさい……あ、」
玄関に着いてみると案の定。
千種はぐっしょり雨水を吸って重くなったニット帽を無表情で見つめ、犬は文字どおり子犬がするように身体を大きく震わせて水気を飛ばしていた。
骸様は房のような後ろ髪が今は雨に濡れて萎びている。
彼の白い肌にシャツが張り付いてて、目の置場が無い。
私は恥ずかしくなって誤魔化す様に骸様から目を反らした。
「傘、は?」
「……忘れた」
千種が眼鏡についた水滴を何時もの様にめんどいと拭きながらこたえる。
すると、
「すみません、クローム。タオルを人数分持って来てくれませんか?」
「あ、はい」
そう言われたので直ぐに取りに行こうとしたが、動けない。
ぽたり、ぽたりと髪から水が滴り落ちるその骸様は、何時もより色っぽく見えて、私はつい見惚れてしまった。
…これが『水も滴るいい男』というものなのだろうか。
少し、納得。
「…クローム?」
固まった私を訝しげに見やる骸様。
その表情でさえ艶やかに見えてしまうのは最早病気なのだろう。
「クローム、クローム!」
3回目の彼の声ではっと覚醒する。
「あ、はい!今持って来ます!!」
慌てて方向転換してタオルを取りに廊下を走る。
(早く体を拭かないと、みんな風邪引いちゃう!!)
でも、真っ赤になった顔を、彼らもとい骸様に見られたくなかったことが何より、一番の理由だった。
び し ょ 濡 れ 侯 爵 と ア リ ス の 混 乱
「なんらよ、クロームの奴」
「……どうしたんでしょうねぇ」
「あれ、どうしたんれす骸さん?顔がにやけt「すみません骸様、今黙らせます」
end.
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