世界のオワリで愛を叫ぶ


※ユーサネイジアの前のはなし
















あぁ、ああ。

クローム、クローム

嘘だ夢だこんなの信じない。

なぜ、なぜ、どうして、なんでこんな。

彼女は何一つ悪くないのに、こんな仕打ちは僕だけで十分なのに。



神様どうか、











その日、僕は彼女と待ち合わせの約束をしたレストランに向かっていた。

9月のイタリアは日本とは違い、もう肌寒い。
空は誰かを思い起こすような澄んだ青空。
乾いた風が時折吹いて唇の水分を奪う。
僕はその唇を一度舐めた後に、そういえば彼女に舐めると余計乾燥する、なんて咎められたことを思い出した。



――――僕らが出会って、また付き合いだしてもう随分経つ。
僕は23、クロームは20を越えた。
今日は久しぶりに昼だけではあるが休みがとれたのでクロームと二人、彼女のお気に入りのレストランで少し豪華な昼食。
そして、彼女にプロポーズしてみようかと思っている。
昼間というのが雰囲気に欠けるが、残念ながら今を逃すとしばらく彼女とゆっくり過ごせる機会がない。
今回だってボンゴレを無理矢理説得(恐喝)して時間を作ったようなもの。
善は急げ、だ。
指輪も科白も用意した。
後は上手くいくことをただ祈るだけ……とは言うものの、祈りを捧げる対象、つまり神仏などは一切信じていないので形式だけになるが。




「――おや、」

僕がレストランに着くともう既にクロームは席についていた。
まだ30分前だというのに、だ。
どうやら店が予想外に混んでいたらしく外のテーブルについたらしい。
僕はきちんと予約するべきだったと後悔して、ぼんやり遠くを見つめる彼女の方に歩み寄り、

「すみません、待たせてしまいましたか?」

「骸様!」

クロームは骸に気付くと顔を輝かせ笑顔で迎えてくれた。
テーブルに着いて近くのウェイターに彼女と同じものをと頼む。

「随分と早いですね、クローム。いつから此処に?」

「ついさっきです。骸様こそお早いですね。」

「可愛いクロームとの久しぶりの食事が楽しみでつい、ね」


クフフと嬉しそうに笑うとクロームは顔を赤らめて、からかわないで下さいと恥ずかしそうに頬を膨らました。
そして俯いてモゴモゴと、


「わ、私だって…その、楽しみに…」


その様子が可愛くて不覚にも胸がときめいた(ボンゴレが聞いたら笑い死にそうですね)。

照れてますねクローム。
てっ照れてないです!
ほら顔真っ赤ですよ。
うぅ、骸様の意地悪…
一通りそんな応酬を繰り返した後、お互い顔を見て笑い合う。

改めて幸せを実感した。

恋しい、苦しい、愛しい。
彼女を見るたび自分のなかに渦巻くそれらは如何に僕が彼女を想っているかの証拠で。
ああ、好きなんだなぁと、実感させるもので。
表現しきれない感情が溢れて自然と笑顔が漏れた。



この幸せが続くと信じて疑わなかった僕は足元の奈落に気付かない。







それは食事を始めてすぐの出来事だった。

料理が運ばれクロームと他愛ない会話をしていると彼女が歩道をじっと見ているのに気付いた。


「どうかしましたか」

「あの子…」

彼女の視線の先にはひとりの幼い少女が泣きそうな顔で街路樹をみあげていた。
どうやら高い枝に帽子が引っ掛かってしまったらしい。

「ああ…風が強くなってきましたからね」

「私ちょっと行ってきます」

「おや、食事が途中ですが」

「でも、どうしても気になって」

躊躇いを浮かべながら、やっぱり駄目ですかと無意識に上目遣いで訊く彼女に、

「いえ、行ってきなさい。じゃないとずっとそわそわして僕の話も上の空な気がしますから」

僕は人差し指をたてて微笑む。

「でも、早く戻ってくること。お前に大事な話と渡したいものがあるので」

「渡したいもの?」

「戻ってきてからのお楽しみですよ」

「じゃあ大急ぎで戻りますね」

笑って少女の元へと駆けていくクローム。
必死に枝に手を伸ばして取ろうとする健気なクロームとその隣で応援する少女の姿は歳の離れた姉妹さながらで。
見ているこちらとしては微笑ましいものだった。

もう少し眺めてから手を貸しに行こう、そう思ったとき、辺りに突風が吹いた。

「あっ」

帽子が枝を離れ道路へ躍りでる。
少女がそれを追い掛ける。
何かに気付いたクロームがその少女に向かって叫んだ。

僕が異変に気付いたのは彼女が駆け出した後だった。
僕は彼女の名を叫んでテラスから飛び出した。

二人に迫るトラック。

響く甲高い悲鳴にも似たブレーキ音。

その前に恐怖で立ちすくむ少女。

辺りに広がる騒(ざわ)めきと戦慄。

少女を歩道へと突き飛ばすクローム。

そして、その場へ疾る僕。




次の瞬間、くぐもった鈍い衝突音がして間髪入れずにトラックが目の前で横転した。
耳をつんざくような金属とコンクリートが擦れ合う音が辺りに響く。


「…クロー、ム?」




手を伸ばした先に愛しい姿はなかった。



世 界 の 終 焉 を 叫 ぶ





(神様どうか、目の前で流れる赤は嘘だと言って下さい)

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110715
『ユーサネイジアを望む』の前の話。
死ネタした思いつかないとかどゆこと…
そのうちまた直します。
骸とクロームの甘くて切なくて(書いてるわたしが)胸熱な話が書きたい。
凄く書きたい。
むしろ書いて下さいお願いします。
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