骸髑で休日の朝



(――温かい)

眩しい土曜日の朝。
微睡(まどろ)みから徐々に醒めていくなかで僕はふわり、と温もりを感じた。

(――そう言えば今日は晴れだと予報で言ってましたか)

自室のカーテンの隙間から差し込む朝日が閉じた目蓋を緩やかに焼き、そのことを裏付ける。

まだ眠い目を擦りながら、時間を確認しようと枕元にある携帯に手を伸ばしたところで、その手は目的を果たさないままピタリと動きを止めた。

「…まったく」

温かく感じた理由。
その熱源が僕に寄り添って、気持ちよさそうにすやすやと寝息をたてていた。
僕のシャツを離すまいと掴んで眠るクロームを苦笑しつつ抱き寄せ、彼女の額に挨拶代わりのキスをする。
まだ夢のなかにも関わらず、擽ったそうにはにかむクロームが可愛いくてつい抱き締める力がじわりと強くなった。

「…可愛い、ですね」

ああ、この気持ちをお前にどう伝えよう?
『好き』ではあながち間違っていないが言葉足らず。
『大好き』では少し何かが欠けている。
『愛してる』では近いけれどわだかまりが胸を圧迫する。
今のこの気持ちを表現したいのに適切な言葉がでてこない。

「……」

何かを言おうと口を開きかけては閉じるという行為を繰り返し、じれったい思いに苛まれていると、

「むくろ、さま…」

ぼそり、腕の中で寝惚けた呟きが聞こえた。

「すみません、クローム…起こしてしまいましたか?」

静かに問いかけるが何も返答が返ってこない。
どうやら寝言だったようだ。
込み上げる愛しさをこらえて頭を撫でるに止(とど)めると彼女は少し身動ぎして僕に擦り寄った。

「わたし、しあわせ、です」

そう夢の中で呟いたクロームはそれきり寝息をたてて口をつぐんだ。
一方で僕は目をぱちくりさせて彼女を眺める。

「…幸せ、ですか」

幸せ。
まさかその言葉が自分に向けられる日が来るなどつゆ程も思っていなかった。
『幸せ』だなんて口にできるのはぬるま湯に浸かっている平和ボケした人間だけで、あの頃の僕からは一番遠い所にあり、全くの無縁な存在だったからだ。
実際、そんなものが無くてもこれまで生きてきたし、これからもそうやって生きていく。
そんなもの僕には必要ない。
現在(いま)も過去(むかし)にも未来(これから)にも。

しかし時の流れは人を変貌させる。
それは良い方向にも、ときに悪い方向へもだが、僕はどうやら良い方へ転がったらしい。

今、この瞬間、気付かされた。
本当は誰よりも望んでいたのだ。
どんなに欲しくても手の届かなかったソレ。
誰からも与えられる事無く、誰にも与える事の無かったソレが。

「今は、こうやって…」

クロームが感じて、また僕もありのままを感じている。
いつも目覚めるとお前の可愛らしい寝顔が直ぐ傍にあって、その鈴を転がしたような声で僕の名を呼んで、小さな身体を抱き締めて、応えるように抱き締められて、微笑み合う。
これが僕の、僕らの幸せ。

「なるほど、どうりで気持ちを表現するのに上手い言葉が出てこなかった訳です。実感…というより自覚が全く無かった。」

この気持ち自体は随分と前からあったんですけどね。

久し振りの休日ということで、彼女の柔らかな香りと温もりに包まれて二度寝するのもいいか、なんてことを再び沈み始めた意識の片隅でぼんやり思いながら重くなる瞼を緩やかに閉じた。








(言葉だけじゃ足りない)

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110325
新婚夫婦の姑になりたい。
そしてイチャイチャしてる二人をいつも端の方からニヤニヤしながら眺めるのが私の夢(真顔)
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