Immortal
Immortal #4
とっさの判断、とでもいうのだろうか。叫んだ後まず最初に考えたのは、"勘違いしたふりをしよう"ということだった。電話にでた男は、この電話の先にいるのは、友達じゃない。
──こんな低い声じゃない。友達は、…女だ。
じゃあやっぱり"彼"は誰だというのか。思えば、ずいぶんバカなことを言った気がする。天国がどうとか宇宙がどうとか。何に向かってそんな話を?ただの変態かもしれない(盗聴マニアとか)。
友達の死が無駄じゃなかったという証人なのかもしれない(だとしたら彼はエイリアンかアメリカの特殊兵だ)。
一通り考え、落ち着いたところで賭けてみることにした。
「…あ…」
危ない賭けでも、もしかしたら───。慎重に言葉を発した。
「…良かった、生きてたんだね」
受話口の向こう側の空気が、止まったのを感じた。考えてる、考えてる。どう出るだろう。もう少し、"ヒント"をあげよう。
「携帯、壊れちゃったってきいてたから、だめかなと思ったんだけど」
私は"あなた"の知り合いよ、ここで電話が切れたらシロ。コイツはただの変態で終わる。
『──……ああ、繋がっている』
つながったままなら───
「…私が、わかる?」
『──勿論だ、ノア』
背筋が粟立った。
名前まで知られているなんて。やっぱりただ者じゃない。この人は、なに?
「……上海ではどうだったの?大丈夫だった?」
"あなたは上海に行った"、の。そのことも教えてあげよう。
『──大丈夫、だ。大変ではあったがな』
なに、この人。面白い。
最初の恐怖感がどんどん薄れていき、それは興味に変わった。充分こちらも変態だ。
「いつ、帰ってこれそう?」
『しばらくは…無理だ』
「そっか…」
ぞんざいに扱ったりもしなければ、無理に詮索もしてこない。そつがなく、うまく"だまされる"ように話す電話の向こうのこの人を、想像した。
ねえ、あなたはどんな人?
毎日、聞いてくれてたの?
「意味がないことだと思ってたの」
でも、あなたにつながった。
「あなたは死んだと思ってたから」
ううん、彼女はもう死んでる。わかってる。
「でも、認めたくなかったし、声が聞きたかったの」
この人の声?彼女の声?誰の声を?今はもう分からない。
ただ、あなたにつながった。それだけだ。
「意味のないことでも、自我を保つ理由になるなら、意味があるでしょ?」
何を言っているか自分でもわからない。でもなぜか、今の今までずっとすべてを黙って聞いてくれていたこの電話の向こうの彼は、訳が分からないだなんてつっぱねたりせずに、聞いてくれそうな気がするのだ。なんだろう、この不思議な根拠もない変な信頼性を、電話の向こうに感じる。
『──意味があるかは、…わからん』
素直な、穏やかな答えだった。
それが、一番自分にとって求めていた答えのような気がした。無意味な回答のはずなのに。
なぜか無性に可笑しくなった。
「いいの。それぞれ、でしょ?」
不思議な人。
だけど中身はきっと優しい。怖いけど、きっと優しい。
「あなたに繋がってよかった」
ぼんやりとした曖昧なはじまり
けれど確かに繋がっている
あなたが 電話の向こうに いる