Reason
ありがとう
まっすぐと海路を進む空母の甲板で、サムは巨大な友人の足音を背後に聞いた。
『心から礼を言う、サム。私の命を救ってくれてありがとう』
隣に聳えるその友人の手の中には、もう一人友人がいる。
オプティマスの肩に止まったカモメに、手中のユマはびっくりしながらも、その優しい笑顔でそれを見ている。
「ううん、僕こそ。信じてくれてありがとう、二人とも」
ずいぶん離れていたような気がしたが、そうでもなかった。
皆の気遣いで、格納庫の一角を借りた。二人きりの空間。この感覚は久しぶりだ。オプティマスの手の中で、ユマはゆっくりと息をした。
「有給、終わっちゃった」
『とんだ休暇だったな』
傷だらけの装甲を一通り眺める。ユマは口を結んだ。そして、オプティマスを見上げる。
「顔の近くに」
ユマが手を掲げてそう言うので、オプティマスは彼女を乗せた手を顔に近づけた。
小さな唇がふれる。
「…やっぱりちょっとディーゼルの匂いはするかな…」
『……………』
「あ、別に嫌じゃないんだけど」
ユマは大げさに手を振った。
『内部プロセスが傷の修復を優先している。その処理までまわらない』
「あ、やっぱり無理しないで。ラチェットとジョルトのところへ行って」
オプティマスは不服そうに排気を洩らした。
『同じ空間でともに過ごす時間が取れたのに、君は私をここから追い出すつもりなのか』
目を丸くしたユマは、首を振った。
「ちがうちがう、そうじゃなくて!心配してるだけ。早く傷治して、行ってきて、ね」
懸命に笑顔を作る。
そばにはいたいが、これが夢ではないことを願いたい。出来るだけ傷を治してほしい。
するとオプティマスはあっさりと、
『そうか。では行こう』
と言った。
『君がそう望むのなら』
とも。
「………」
そう言われると、ちがう気もしてくる。
「あ、あのオプティマ…」『今君が一番望んでいることは、私がラチェットとジョルトのもとへ行くことなんだな。今は別にそばにいなくてもいい、と』
「………」
『………』
「………」
『………なんだ』
「…………いじわる」
オプティマスはユマをゆっくりと顔に近づけ、キスをした。柔らかい唇を離すと、ユマは微笑んだ。
「プライムの」
『ん?』
「プライムの墓で誓いを立てたの。オプティマスを連れてくるって」
『………』
「一緒に、行ってくれる?」
頷いた恋人のカメラアイには、青い光が満ちていた。ユマは安堵して微笑んだ。
『だが…』
「え?」
『今はもっと重要な事がある』
そうオプティマスが言ったとき、通路に続くスライドドアの向こうで、兵士が笑う声がした。
オプティマスがスライドドアにロックをかける。
「?」
切なげに見てきた背の高い彼は、ゆっくりと、出番のこない航空機と航空機の隙間に、彼女を追い詰めた。優しく。
『君の存在を確かめたい。この星に戻ってきたことをもっと明確に……自覚したいのだ』
小さく耳元でそう呟いたオートボットの指揮官のこんな一面は、きっと自分しか知らない。
そんな幸せに、ユマは思い切り身をゆだねた。
◆1ヶ月後◆
ヨルダンのペトラ遺跡。特別に政府からオプティマスが許可をとり、限られた時間ではあったがユマはここで立てた誓いを守ることができた。
溶解してひとつになった、プライムの墓。いつきてもあたたかい。
聳える遺跡に入る。オプティマスは、それをただ遠くを見るように見つめた。
『ユマ』
「?」
『どうして此処に私を?』
ユマはオプティマスを見上げていたが、その視線をプライム達に移し、辺りを見回した。
「──"家族"を感じたから」
瞳を閉じて息を吸い、ゆっくりと吐き出したユマは、続けた。
「オプティマスが失ったものが形を残した唯一の場所だし、すべての思いがここに詰まってて、すべてはここから始まったんだと思うと、どうしても連れてきたかった」
ユマは指輪をシャツから出した。今も首にかけている。
「これと同じあたたかさを感じる」
指輪は、青く輝いている。
「この場所と、この指輪があったから、私希望を捨てずにあの時走れたんだと思う」
オプティマスは肯いた。
『希望は、君が証明したとおり、一番大切なものだ』
その言葉を、ユマは指輪を握りしめて受け止めた。
『……君に言うべきことがある』
「ん?」
『…ありがとう、私を導いてくれて』
「………」
『君がいてくれたから、戻ってくることができた。君とサムのおかげだ』
ユマは嬉しそうに頷いた。
「オプティマス」
『?』
「…ありがとう、私を必要としてくれて」
遥か昔から 結ばれていた
これからは、共に未来へと進む
私は オプティマス・プライム
このメッセージを──
我々の過去を永遠に記憶するために送る
その記憶の中で 我々は共に
いつまでも 生き続ける
───fin.
Reason
09/08/10
completion.
Reason
09/08/10
completion.