Reason
導かれた先に
「12時の方向に民間人が3人!」
兵士の声でレノックスとエップスはかぶりをあげた。相変わらず銃弾の雨は止まない。
『おい!ユマだ!サムとユマが来たぞ!』
敵の攻撃を受けながら、サイドスワイプが叫んだ。
手をつないだサムとミカエラ、それに続くユマは全力で走った。兵士が見えたのだ。あそこまでいけばなんとかなる、あそこまでいけばなんとかなる、とそればかり考えて走り続けていた。
背後に密やかに迫るディセプティコンには、まだ三人とも気がついていなかった。そのディセプティコンが、メガトロンであるということも。
背後の爆発音で、一度だけ三人は振り返った。後の視界が全て炎のオレンジ色だった。熱風に巻き込まれそうになりながら、ユマは何も考える事が出来なくなっていた。
砂の中に、ミカエラとサムが倒れ込む。ユマも速度を抑えて滑り込んだ。前方で聞き覚えのある男性の声がする。
「ユマ!!!ミカエラ!!!!」
レノックスだ。エップスもいる。
レノックスに腕を掴まれ、申し訳程度に残った石の壁に五人は集まった。
「呼び出したからには、ちゃんと理由があるんだろうな」
レノックスが切羽詰まったようにぶっきらぼうにそう聞いた。サムが口を開いた。
「オプティマスは?」
「あそこだ」
指を差された方に、オプティマスの姿がわずかに見えた。カバーのようなものがかぶせられている。
「もうすぐ航空支援がくる。オプティマスはその後だ」
「だめだ、「今すぐ行かなきゃ!!」」
サムとユマの声が重なる。二人とも分かっていた。時間がない。魔法の砂を、堅く握りしめた。そう言ったあとすぐに、五人の背後で轟音が響いた。頭を下げるようレノックスに指示される。頭上で何かが起きている。爆発音に思わず目を瞑った。
『ちゃんと着地しろ───!見よ!このジェットファイア様の雄姿を!』
遠くから聞こえた意外な援軍の声は、記憶に新しかった。
頭上を掠める攻撃をしていたディセプティコンを、ジェットファイアは一瞬で半分に切り裂いた。
『俺の時代の戦い方を教えてやる!』
荒々しく振り払うその腕は確かに衰えなく、バラバラと落ちてくる瓦礫に身悶えながらも、ユマはジェットファイアの雄姿を見ていた。あまり余裕はなかったが。しかし、それも長くは続かない。
ボゴボゴボゴと不気味な地響きに背筋が凍る。頭上に現れたのはサソリ型のディセプティコンだった。まさに不意打ち。
ジェットファイアは胸部を引き裂かれた。
『ぐぉあ!』
サソリ型のディセプティコンをレノックスとエップスは知っていた。忘れられない。二年前に今と同じように命を危険に晒したヤツだ。ジェットファイアはそれを難なく掴み、結局踏みつぶしたが、胸部の傷からスパークが漏れていた。直接傷がついたらしい。
『…俺も老い先短いか』
突然のジェットファイアの乱入と今のほんの何十秒かの戦闘に感想も言えない、そのくらいの緊迫だった。
──ジェイダム弾を発射、標的に接近、着弾まで30秒───
無線からの報告を受け取り、レノックスが切羽詰まったように三人に言い放った。
「俺が合図したら海岸まで走れ、いいな?絶対離れるな。しっかり俺のケツについてこい」
──煙を確認───
エップスが無線を片手に言いにくそうにつぶやいた。
「狙いは正確かな」
「なにが」
イライラしたレノックスが聞き返す。
「"オレンジの煙を狙え"と言ったんだ」
右手二メートル隔てていない場所で、もくもくとわき上がる煙の色は、
「…オレンジって、これか?」
「…ちょいと投げ損ねてね…」
優秀な少佐と投げ損ねた軍曹は無言で顔を見合わせた。
──爆撃開始───
レノックスはミカエラの手を引っ張り、エップスはユマの手を引いた。ヨーイ、ドンもなしである。
「「はぁぁぁしれぇぇぇぇ───!!」」
走り出したエップスに引っ張られながら、ユマは視界に入ってきたブルーと赤の機体を見た。
「来るぞ───!!」
行かなきゃ、
「急げ!」
エップスの手をふりほどいた。
「ユマ──!よせ!!」
サムが前方に見えた。同じことを考えている、サムと。きっと同じことを。全速力で、迷いなくオプティマスに向かっていく。
「サム!ユマ!待て!」
「サム!」
その時背後で聞こえたのは、あの森で聞いた忘れられない、金属と獣が唸るような音だった。一度だけ振り向いた。恐ろしかった。
砂煙でそれは見えないが、巨大な黒い影は、もう誰かわかる。
──メガトロンだ。
絶対死なせない。彼はオプティマスを呼び戻さなければならない人だ。ユマは覚悟を決めた。しかし間に合わなかった。
「サム!逃げて──!!」
『死ね──!!』
前方を走るサムを、叫んだユマが抱きかかえたのと、ユマのすぐ後ろでメガトロンの発射した砲弾が爆発したのは、ほぼ同時だった。
二人は、爆風で吹き飛ばされた。
一瞬の出来事だった。
「空爆中止だ!民間人を救助する!」
エップスが無線に向かってそう叫んだ。