ロマノン | ナノ

06


 精孔開いちゃったりぶっ倒れたり貶されたりした後、なんと店長とムジナさんが修行をつけてくれることになった。

「これも何かの縁だしな」
「多少修行をしたところで、キミと私の力関係は変わらないからね」

 とのことだ。もちろん上が店長、下がムジナさんである。ムジナさんェ……。

 初めて会った時とキャラ違わないですか? と聞いたら「あの時は仕事だったから」と返ってきた。ということはプライベートで修行つけてくれるってことで、ある意味、超上からの発言もツンデレと言えなくもない、か……?

 べっ、別にアンタのためじゃないんだからね! ただの気まぐれなんだからっ!

 みたいな? 嬉しいような、そうでもないような。三次のツンデレは萌えないってよく言うけど、この場合どうなんだろ。元は二次元の世界とはいえ、今の俺にとっては現実なわけだし。店長はさすが店長、渋いっす! 店長と縁があってよかった……!

 あれから一晩ゆっくり寝て、本屋の通常業務をこなし、夜になった。ちなみに今日もお客さんは来なかった。経営は大丈夫なんだろうか。何度目かわからない心配をする。

 今日はご飯を食べたら店の裏にある店長の家に来るよう言われているので、逸る気持ちを抑えてゆっくり行動する。店長もご飯食べるだろうし。慌ただしくさせちゃうのは申し訳ないからね! 食器も洗って、そろそろいいかな、というタイミングで店長の家に向かった。

 実は、店長の家に来るのは初めてだったりする。お世話になるって話をしたのはお店だったし、俺が借りている部屋は店内にあるから、来る機会がなかった。買い物に出るにしても、店の入り口側に大通りへ向かう路地があるしね。

「おお……レトロだ」

 初めて見る店長の家はなんというか、洋風レトロだった。白い壁に蔦とか這ってるし……これって自然には這わないよな? 店長の趣味なんだろうか。単に借家とかかな。

「お邪魔しまーす」

 インターホンを探したが見当たらないので声をかける。つか鍵開いてるんだけど……不用心な。強者の余裕ってやつだろうか。

 玄関には店長のものと思われる大きな靴が何足かと、女物のショートブーツがあった。これムジナさんのだよな? 結構足大きいぞ。俺とそんなに変わらないような……背も同じくらいだしそんなものなのかな。

 ムジナさんのブーツと自分の靴を横に並べてまじまじと見比べた後、リビングと思わしき部屋の電気がついていたのでそちらに向かう。

「こんばんはー」
「はいこんばんは」
「おう」

 ノックをして扉を開けると、予想通り店長とムジナさんがいた。丁度食事が終わったところだったらしく、ムジナさんが食器を片付けている。

 しかしこの二人ってどういう関係なんだろう。何度目かになる疑問を飲み下す。流し台で食器を洗うムジナさんの背中を見つめながら思案していると、そのムジナさんから声がかけられた。

「体調はどう?」
「バッチリです!」
「ならよかった」

 ムジナさんは洗い物を終えると、片付けた机の上にワイングラスを置いた。グラスにはなみなみと水が張られている。

「ではおさらい。練とは何か?」
「体内で練ったオーラを、精孔を一気に開くことで外に出す……こと?」
「正解。これにより通常以上にオーラを生み出すことができる 」

 言いながら、ムジナさんは花瓶に差された花から一枚葉っぱを千切った。それをグラスに張った水の上に乗せる。

「これから水見式をしてもらう。水見式とは、このように水を張ったグラスに葉を乗せたものに向かって練をすること。これで念の系統が分かる」
「念には六つの系統がある。自身や物の性質を強化する強化系、オーラを体から切り離して使う放出系、オーラの性質を変える変化系、物質や生物を操る操作系、オーラを物体化する具現化系。そして、これら五つのどれにも当てはまらない、特殊な性質を持つ特質系だな」
「それぞれの系統によって水見式の反応が変わる。まずはやって見せるから、よく見てて」
「はい」

 ムジナさんがグラスに向かって練をした。顕在オーラの量はそんなに増えたようには見えないのに、グラスの変化は顕著だった。

「水が……青くなった」

 海みたいな、深い青色だ。一瞬で色が変わる様は美しい。

「水の色が変わるのは放出系だ。次は俺がやるから見てろ」

 そう言う店長は手に洗面器を持っていた。あっ、もう店長の系統わかっちゃった……。

 店長の練は見るからに力強く、顕在オーラの量もグッと増える。予想通りグラスから水が溢れ、大量の水が洗面器に受け止められていた。

「ウィルみたいに水の量が増えるのは強化系。自分自身を強化して殴り合うタイプが多い。見た目通りでしょ?」
「かっこいいっす!」
「あ、そう……」

 店長は殴り盾って感じ! 盾として完成されつつアタもできる人がパーティーにいるとすごく安心だよね!

「ま、とりあえずやってみなよ」

 溢れた水や洗面器はそのままに、グラスに向かって腹からオーラを練るイメージで練をする。昨日の、全身の毛穴が開く感覚がまだ頭に残っているので、精孔を開くのはやりやすかった。

 グラスを見ていると、水がほんのり、僅かにピンク色になった。なんというか、時間もかかってるし、色も薄い。

 俺と同じくグラスの変化を見つめていたムジナさんが口を開いた。

「……放出系だね」
「な、なんでピンクなんですかね?」
「脳内お話畑だからじゃない?」

 ひどすぎる。

「色はともかく、放出系でよかったじゃない。魔法の詠唱だっけ? 向いてるよ」
「おおお……!」

 やったー! これで「無理。向いてない」とか言われたらどうしようかと思った。言いそうだし。

「ただ、本当に魔法のように何でもできるわけじゃない。条件をつけてそれっぽくするってこと」

 そう言うと、ムジナさんは机の上に置いてあったチラシを裏返し、そこに六角形を描いた。六角形の中に発、頂点の上から時計周りに強、変、具、特、操、放と書き込んでいく。……ハンター文字で。

 書き終わった後で、ムジナさんが視線を上げて尋ねてきた。

「読める?」
「大丈夫です。読むだけならそこそこできるようになったんで」
「フーン。頭は割といい出来みたいだね」

 ほめ……られ……いや、どうだ? ほめ言葉かこれ?

 まあバイト中のほとんどが勉強時間だし、この図……六性図だっけ? これは漫画でよく見てたからわかりやすいってのもあった。

 正直、大学受験のときくらい勉強してる気がする。受験中と違って苦痛がないのは、それだけ気持ちが入ってるからだろう。漠然と「いい大学に行かなきゃ」くらいの意識しかなかったあの頃と違って、目的も、周りへの感謝もある。

 これもある意味来世から本気出す状態かも、なんて考えていたら、ムジナさんが再びチラシへと目線を落として話を続けた。

「系統の習得には向き不向きがある。自分の系統に近いものほど相性がよく、遠いものほど相性が悪い」
「はい」
「キミは放出系だから、もちろん放出系能力が一番使いやすい。隣合う強化と操作もそこそこ得意だと言える」

 そう言うムジナさんによって放の字が丸で囲まれた。

「逆に、具現化系の能力は一番苦手。変化もイマイチ。それと、特質は特別な能力だから、位置関係なく使えない」

 具と特にバツがつけられる。

「放出系能力者が単純に強力な技を使いたいなら、オーラを弾丸状にして飛ばす念弾が一番いい。キミの言う魔法の詠唱って言うのは、あくまでも別の能力を使うツールってことだよね?」
「はい! 放出系の能力である詠唱を挟むことで、強化っぽい能力とか操作っぽいこともするって意味で……す」

 俺の言葉を聞きながら、ムジナさんの顔がなんとも言えない感じに歪んでいった。

「ほんっっとロマンチストというか、無駄なことが好きというか……」
「うっ」
「よっぽどうまく条件を組まないと、魔法どころかおまじない程度のスカスカな能力、ただの器用貧乏になるよ」

 うう……でもロマンを追い求めるのは男の性だろ! めちゃくちゃ憧れてたんだもん! 現実的に無理ならともかく、やろうと思えばできる環境なんだから、やっちゃうでしょ!!

「それでも……やります!」
「はぁ……」
「ま、男はそんなもんさ」

 店長ぉ……!

「ウィルまで……まあいいよ。キミのことなんだから。とにかく、一段階挟んでどうこうするにしても、今は絶対的にオーラの量がたりない。水の色の変化が弱すぎる。しばらくは練の訓練をして、水見式の結果が顕著にでるようになってから本格的に発の訓練をすること」
「押忍!」

 師弟っぽく、気合いを入れる意味で原作のズシ達の真似をしたら、「暑苦しいからやめて」と言われてしまった。せつない。


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