ロマノン | ナノ

16


 ヒソカが医務室から出ていってすぐに、医者に怪我の説明をしてもらった。

 俺の印象だと全治三ヶ月くらいいくんじゃない!? って感じだったんだけど、「ヒビ入ってるねー、まあ一ヶ月もしたら治るんじゃない」とのことだった。おいおい医者テキトーすぎるだろと思っていたら、シャルに「正直、騒ぐほどの怪我じゃないよね」と言われてしまった。

 いやいや、こちとら怪我とは無縁の生活を送ってたからね。せいぜいこけて擦りむくとか、痣が出来るとかそんなレベルだから。組み手のときだって大きい怪我はなかったし! 一応人生で一番大きい怪我だからこれ!

 とりあえず固定はしとくけど、動かさない方が後々困るから出来るだけ動かすように、と言われた。へーそんなもんなんだ。

「ねえねえ、三人でさ、前行ったジャポンスイーツのお店行こうよ」

 医者に目が覚めたんなら早く帰れと言われた後、シャルがそう提案してきた。体感としては長かった試合だけど、実際はすぐに終わってたので今は16時前。遅いおやつと言ったところだ。 シャルは俺にそう言うと、マチの方を向いて説明する。

「アカルってすごくジャポンスイーツ好きなんだよ」
「へえ」
「あ、そういえばアカル、これはマチ。前に話したジャポンフリークの一人」
「アカルです、は、はじめまして」

 こ、これがリア充だけに許されるスキル、"女の子紹介"……! いや、そういう意味で紹介されてるわけじゃないのはわかってるんだけど、何分初めてのことなので浮かれてしまう。

「マチ。よろしく」

 素っ気ない! けどかわいい! 

「アカルいわく、めちゃくちゃいい店らしいよ」
「ですです! 和菓子好きなら絶対気に入ります!」
「ふーん。じゃあ行ってみようかな。あ、敬語はいいよ。むず痒いし」
「お、おお……」

 ドギマギとしていると、シャルが呆れたような目で見てきた。イケメンには今の俺の気持ちなんかわからないよ……!

「シャルの友達って言うからどんな奴かと思ってたけど、案外まともだね」
「失礼だな。予想通りまとも、だろ?」

 医務室を出て三人で移動しながら話していると、マチがそう言った。いいなー、この軽口の応酬って感じのやり取り。女の子相手だというのに、全く気負った様子のないシャルを見て、この余裕のある感じもイケメン要素の一つなんだろうなと思う。

「ていうかアカルの発初めて見たけど、まんまネトゲのアカルで笑ったよ」
「うっ」

 突然振られた話題の内容に、思わず呻く。そうなんだよね、結構そのまんまなんだよね。ムジナさんも店長もネトゲとかしないタイプだから悟られなかったけど、シャルには明け透けなのかと思うとちょっと恥ずかしい。

「なんかわけわかんない発だったね。実況が魔法とか言ってたけど」

 わ、わけわかんない、だと……。マチから放たれた言葉に愕然とする。イメージそのままだと言われるのも恥ずかしいけど、わけがわからないと言われるのもそれはそれでショックだ。

「確かに、ゲームと縁遠いとわかんないかも」

 シャルがマチの意見を補足するように言う。

「そ、そうなの?」
「少なくともあたしはよくわからなかったね」

 手の内が読まれないことを喜ぶべきか、キモヲタ理解不能と言わんばかりの反応を嘆くべきか……後者寄りのテンションになっていると、シャルが「アカルは魔法使いをモチーフにしてるんだよね?」と尋ねてきた。

「そうだよ」
「魔法使い……?」

 マチがますます意味不明という顔をした。まあ、ムジナさんにも散々言われたけどね。

「魔法使いって言っても、童話とか小説に出てくるような魔法使いじゃなくて、ゲームでの職業としての魔法使い。魔法で敵を倒すことに特化した職業だよ」
「ふーん?」
「大抵属性魔法を使うんだ。オレ達がやってるネトゲだと火、水、風、土の四属性だね」

 なんかめちゃくちゃ解説されてる。思考を丸裸にされてるみたいで恥ずかしいんだけど。

「そういえば、実況が風魔法がどうとか言ってたね」
「うん。ネトゲでもアカルは風魔法に特化した魔法使いなんだよね」
「風魔法が一番対人向けだから」

 念の方は単に火や水に性質変化するのが苦手だからああなったんだけど。風なら操作と放出だけで出来るからね。

「観てて不思議だったんだけど、あそこって武器持ち込み可でしょ? あれだけ操作出来るならナイフとか持ち込めばよかったんじゃないの?」
「マチ……魔法使いに馴染みがないとわからないかもしれないけど、魔法使いはナイフで戦ったりしないんだよ」

 マチの無粋とも言える指摘につい力説すると、マチが白けた顔をして呟いた。

「……やっぱあんた変」

 俺の馬鹿!!

***

 お店に着いて、俺達はそれぞれ好きなものを注文した。俺が秋の練りきり三種、シャルが栗ぜんざい、マチが月見だんごだ。しばらくは全員が黙々と食べる。美味しいものを食べてるとつい無言になっちゃうよね。

 だんごを食べ終わり、抹茶も飲みきったマチがポツリと呟くように言った。

「ここ、いいね」
「でしょ!? なかなかないよね、こんな店!」
「見つけたのはオレでーす」
「シャル様ありがとうございます」

 おかげで準廃ライフに和菓子というアクセントが加わって、人生無双状態だ。向こうじゃ金銭的に考えられないからなー。とは言っても、現状収入なしなんだから油断は出来ないんだけど。

 あ、そうだ。

「そういえば、マチって元々は俺を治療するために来たんだよね?」
「まあね。三割引きくらいでやってあげるつもりだったんだけど」
「アカルがあそこまで戦えると思ってなかったからさー。なんとなく戦闘向きじゃない発を持ってるイメージだったんだよね」

 へー。なんでだろ。単に弱そうって話なのかな?

 しかし……マチの治療って確か値段千万単位だったような……三割引でも高いな。まあ、技術を考えればそうでもないのかもしれないけど。

「マチの治療って念だよね? 具体的に何するのか聞いてもいい?」

 本当はすでに漫画で見てるから知ってるんだけど、これから頼むことがあるかもしれないので一応聞いておく。出来ればそんな日は一生来ないで欲しいけどね!

 もともとやってくれるつもりで来ていただけあって、特に隠すような素振りはなくサラッと答えてくれた。

「念糸での縫合だよ。骨・血管・神経・筋肉、ほぼ100%繋げられる」
「あー、それでヒソカの腕付いてたんだ」

 俺がそう言うと、マチは口の端を吊り上げるようにして笑った。

「せっかく切り落としたのに悪いね」
「ぶっ……いやいや」

 そんな笑顔で言うことじゃないよ! 蜘蛛って挑発的な笑みの似合う人多すぎだろ。皆もっと穏便に行こうぜ!

 しかしこれは相手がヒソカだからなんだろうか、と思わず湧き上がった疑問を口にする。

「……ヒソカって嫌われてるよね?」
「好きになる理由がない」

 マチから返された言葉の強さに、自分のことではないというのに心が痛んだ。マチさん、キツイお言葉です……。

「別に個人的に合う合わないはいいんだけどさー、仕事に来ないんだよねヒソカって」

 シャルがうんざりとした様子でこぼす。そういえば漫画でもそれっぽい描写があったな。天空闘技場でも休みがちとか言われてるし、普段何してるんだろ? まあ休みがちに関しては俺に人のことどうこう言う資格ないけどね。

「あたしは単純に気持ち悪いね」
「勘含め?」
「勘含め」

 目の前で交わされる会話に複雑な気持ちになった。俺、女の子に単純に気持ち悪いなんて言われたら泣くかも。なんかヒソカが可哀想になってきた。次会ったら出来るだけお前キモイよオーラは出さずに優しくしよう。

***

 思う存分喋った後シャル達と別れ、部屋に帰るとヒソカがいた。部屋の外じゃない、中にだ。

 あ、俺ヒソカに優しくしようかなって思ってたけど、早速心折れそう! 不法侵入なうってか!

 驚きやら呆れやらで足元がぐらつくのを感じる。ソファに腰かけたヒソカは平然とした態度で声をかけてきた。

「おかえり」
「あの、いつも待ち伏せするのやめてくれません……普通に誘ってくれたら会いますから……」

 心臓に悪いどころの話じゃない。ただでさえすでにくっついたとは言え自分が腕を切り落とした相手なのに、それがヒソカだぜ? いくら怪我に頓着しなさそうって言っても、そもそも俺の想像だからね? 本当はめちゃくちゃ根に持つかもしれないし。そんなヒソカ嫌すぎるけど。

「誘ったら会ってくれるんだ?」
「はあ、まあ、予定が合えばですけど」

 意外そうな色を滲ませるヒソカへおざなりに返事をする。俺のスケジュールは常にネトゲで埋まってるからね! つーか意外がるってことは自覚ありかよ性質悪いな。

「キミに言いたいことがあったんだけど、さっきはお邪魔みたいだったから」

 あー、空気読んだんですねわかります。あえて挑発してるように見えたんだけど気のせいかな! 医務室でのシャルの様子を思い出して身震いする。

「キミの発はここ向きじゃないね」
「自覚してます」

 どうせあと半年もしないうちにいなくなるからいいよ! ほっとい……いや、優しく優しく……。内心の興奮を抑え、出来るだけ穏やかに尋ねる。

「言いたいことってそれですか?」
「いいや。これからが本題」

 そう言うと、ヒソカの口が三日月を描くように裂けた。次いで発せられた言葉に思考停止する。

「今度はリングなしでヤろう」

 ……………………え?

「もっと障害物の多い、キミの本来の力が出せるところでさ。全力を見せて欲しいなあ」
「い、いや、あの、えーと。そっ、それより、そう。友達になりましょう!」

 何言ってんだ俺。

「ボク人見知りだから。ゴメンね」

 しかもあっさり断られた! 人見知りは不法侵入してまで他人を待ち伏せしねえよ! 驚きと混乱で言葉の出ない俺をなだめるような調子でヒソカは続ける。

「もっとお互いを知ってからでいいんじゃないかな」
「あ、そ、そう! それです! もっとお互いを知ってからでいいんじゃないですか? 戦うのは!」

 要はそんなに急ぐなよ、ゆっくり行こうぜ! それでそのまま別の人に興味を移そうぜ! ってことだ。決してヒソカと友達になりたいわけじゃない。わけじゃないのに、断られたのがショックなのは相手が「単純に気持ち悪い」とか言われちゃう人なせい。

「どちらにせよ今はまだヤる気ないし、いいよ」

 あっさりと、割とどうでもよさそうに返された答えにハッとする。えっ……あ、また余計なことしちゃった感じなんです? いいよって、お互いを知るにかかってるんだよね? ヒソカにその気がないならお互いを知る必要もないっていうか、今のナシ! って言いたい。

「じゃあ、ハイ。ボクのメアド」

 捨ててええええ!


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