ロマノン | ナノ

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 ヒソカとの対戦を避けるのに使った用事、それはネトゲをすることだった。

 誰がなんと言おうと俺にとっては大事な用事だから! ただホラ、みなまで言わないのは日本人としての性っていうかさ、ホラ。ね? 察せよ。

 そもそも、俺はここに来た時点で「200階までいったら絶対にネト充する」と心に決めていた。

 というのも、ここ天空闘技場にはファイトマネーという勝てば勝つほどお金が貰えるシステムがあり、200階到達時までに大卒サラリーマンの生涯年収に匹敵するぐらいの大金を稼げるようになっているからだ。200階からは報酬の内容や戦闘システムが変わるのでお金は貰えなくなるが、ついこの間まで一介の学生の身分だった俺には充分すぎるほどだった。なんていうか、うん。何度通帳を見ても未だに現実感がないよね。逆に怖いよね。

 正直家を現金一括払いしても何の問題もない感じだけど、今は闘技場側から用意された一流ホテル並みの部屋があるし、なにより天空闘技場は全エリア無線LAN完備。208階の俺の部屋も例外ではない。これは引きこもってネトゲをするしかないだろう、と俺は今までずっと憧れていたネトゲ用ハイスペックパソコンを購入した。

 ついに、ついにネトゲが出来る……! 約五ヶ月もの間ネトゲから離れていたなんて信じられない。店長やムジナさんと一緒にいるとやること多いし暇もなかったけど、今はぼっち! 寂しい! 暇!

 電脳ネットでの評判を見てどれをやるかも決めた。保存食や飲み物も買い込んだし、しばらくは部屋に引きこもっていても問題ない。俺にとって、ヒソカが現れたのは完全なるイレギュラー、想定外だ。つまり優先順位はネト充ライフにある。

 いざ、ディスプレイの中の世界へ!

***

 ネト充ライフを再開してから、あっという間に二ヶ月経った。

 ちなみに職業は魔法使いにした。難易度的にファーストキャラに魔法使いを選ぶことってあんまりないんだけど、こっちに来てから今まで以上に愛着が湧いてしまったので選んだ。立ち回りに自信がない人や初心者にはオススメ出来ない選択なので注意! 名前はもともと本名をカタカナにして使う派だったからアカルのままだ。

 今時のネトゲは本気を出せば五日くらいで大抵のダンジョンへ行けるレベルになるので、その後は本格的な攻略を始めつつ金策して装備を揃えていく。ちなみにこの世界は技術の進歩がチグハクらしく、ネトゲ、というか電子機器関係は2012年と比べて遜色なかった。俺にとっては非常にありがたい話だ。

 ダンジョン攻略時には積極的にパーティーを組んで、上手い人と出会ったら即フレンド登録して次に繋げる。こちらが下手だと断られることもあるが、光栄なことに大抵は相手からお誘いがあった。

 そんなこんなでたまったフレンドリストの中には、おそらく廃人と準廃がひとりずついる。廃人がミルキ、準廃がシャルだ。たまにシャルが連れてくる人で、フェイという名の人もいる。

 全員すごく……見覚えのある名前です……。

 原作キャラとの遭遇率恐ろしいわ! いや実際には遭遇してないんだけどね。もしかしたら赤の他人かも……とは思いつつ、このメンバーでオフ会をする勇気はない。

 ミルキは言わずもがなだから何言っても驚かないけど、シャルが「レベル完ストしてからが本番だよね」って言ったときはびっくりした。言ってることは普通なんだけど、あのシャルナークの姿で脳内再生したせいで違和感すごかった。

 ミルキが複アカで盾・回復・物理アタ持ち、シャルがサポメインのセカンド術アタ、フェイが物理アタ、俺がサポ寄りの術アタと、俺達だけで構成全て揃うことになるので、今では大抵この四人もしくは三人で行動するようになっていた。

 ある日、そのシャルが「数日インできないかも」と言い出した。ちなみに今日はフェイはいない。三人で雑魚狩りしながらチャットで会話する。

『上司の仕事に付き合わされることになったんだけど』
『社畜乙』
『なんでまた?』
『前に上司のミスで仕事ポシャったことを責めたの根に持ってたみたい』
『ちょww』
『バカスww』
『だってそのせいでオレの9時間が無駄になったんだもん!』
『それは責めるわ』
『上司クソだな』

 この上司ってクロロのこと……か? クロロのミスで仕事ポシャるって想像出来ないし、やっぱ別人っぽいな。ちょっと過敏になりすぎていたかもしれない、とホッと息をつく。

『どこ行くん?』
『パドキアの近く』
『マジか。俺家あるわ』
『俺もパドキアの近くにいるんだけどww』
『何それwwオフ会でもする?ww』
『オフ会に着て行く服がない』
『働けww』
『働いてるしww在宅勤務なんだよww』

 ミルキは完全にミルキだな。イメージが全くブレなくて安心する。パドキア在住のミルキさんがする在宅勤務って家業ですよね、わかります。

『まあ会えたらいいねーってかアカルさー、携帯買いなよ』
『電話する友達がいない』
『ワロスww』
『じゃなくて、突然イン出来なくなるときに連絡取れるから』
『あー』

 確かに。今はいいけど、また突然地下に行く日が来るかもしれないもんな。この世界の携帯って多機能だし、地下でも使えるやつあるかも。明日にでも買いに行こうかな。

***

 そんなわけで午前中に携帯を買いに行くつもりが、寝過ごして既に昼すぎだった。くそー無駄寝したー。ネトゲのし過ぎで寝過ごしたと思われそうだけど、実は違うんだよね、これが。ちゃんと修行もしているのだ。

 修行! 修行のしすぎで寝過ごしたの! 本当に!

 だって店長に失望されたくないんだもん……頑張りを認めてくれるからこそ、頑張ってなかったらがっかりさせちゃいそうで。え? ヒソカ? ないない、戦う気全くないよ俺。だってここって4敗で失格でしょ? 戦闘準備期間の90日×4回で360日もつし。それまでに帰って来て店長! と祈る毎日です。

 そもそも俺の能力ってリングで戦うのに向いてないし。俺自身の系統が変化か具現化だったらこの能力でもまだリング向きと言えただろうけど、どっちも苦手な放出系だからね! そのせいで反射結界はタイミングが超シビアで、とてもじゃないけど実力が均衡、もしくは格上の相手には使えない。つまり、ヒソカと闘うのは自殺行為! だから闘わない!

 なんとなく朝からさわやかに活動するタイプではないイメージなので、出来れば外出は午前中にしようと思ってたんだけど……ほら、遭遇したくないから。漫画で本人も言ってたし。気まぐれで嘘つきって。気が変わったとかって戦わされたら嫌だもの。まあでも気にしすぎか……そんなに俺に興味ないよなと思ったので、予定通り携帯を買いに行くことにした。

 天空闘技場付近って、選手や観客、それに観光客と人がたくさん集まるから、周辺施設が充実している。レストランやホテルはもちろん、その他様々な類の販売店も儲かっているようだ。携帯ショップもご多分に漏れずというやつだろう、と思い探していると、予想通りかなり大きな店を見つけた。

 店頭にある、ポップ等で派手に飾り付けられた商品棚を見ると、試合観戦に向いた機種が多く揃っているみたいだった。ムービー機能がハイスペックなものばかりだ。

「ムービーはいいから電波強いやつないかなー」
「そこの青いのおすすめだよ」

 ポツリとこぼした独り言に返事があり、驚いて振り返る。

「それなら大抵のところで電波入る」

 そう言って俺が見ていたものとは違う棚にある携帯を指差しているのは、金髪碧眼の青年だった。ベビーフェイスにミスマッチな逞しい上腕が特徴的だ。

 なんかこの人見覚えある……そして見覚えあるという状況がすごくデジャヴ。

 今までの教訓から、余計なことは言わずにじっと観察する。

 金髪碧眼、ベビーフェイス、発達した上腕、現実ではなかなか着こなせないであろう服装……これシャルナークじゃね?

 己の脳がはじき出した答えの意味を理解する前に青年が話しかけてくる。

「君、天空闘技場の200階闘士アカルでしょ?」
「まだ200階で闘ったことないけど一応……なんで?」
「200階闘士に登録されている人はホームページに写真載ってるんだよ」

 嘘ーマジかよー、肖像権の侵害! てかいつ写真撮られたの? いや、いつでも撮れるか……闘技場での俺は待ち一辺倒だから試合中全然動かないしな。つかシャルナークって! このシャルナークはどっちのシャルなの? A級首の旅団員シャルナーク? いつも素晴らしいサポートでパーティメンバーを助けてくれる準廃シャル?

「ところで……知り合い?」

 一応聞いてみる。いい加減そっくりさんという希望的観測はやめることにした。聞きたいのはどちらの立場の人間としてここにいるのかだけだ。内心でシャルって言って! お願い! と祈りながら尋ねる俺に、シャルナークは人懐っこそうな笑みを浮かべて答えた。

「ああ! オレだよオレ、シャル! ネトゲでいつも一緒に行動してるでしょ?」

 シャルだったー! やったー!

「マジで!? マジであのシャル!?」
「マジマジ。いやーまさか本当に会えるとはねー」

 思わずハイタッチのように手を前に出す。ほぼ無意識だったが、シャルも同じように手を出して合わせてくれた。

 うわー。うわー。うわー! 俺、何気にオン友とオフで会うの初めてかも!

 嬉しくてついテンションが上がる。

「それにしても俺のことよくわかったなー! なんで?」
「アカル昨日パドキアの近くにいるって言ってたでしょ? そしたら天空闘技場にアカルって選手いるし、もしかしたらって」
「なんだそれすげー! いきなりイケメンの兄ちゃんが話しかけてきたからびっくりしたじゃん! シャル準廃の顔じゃないって!」
「えーなにそれ褒めてるの?」
「妬んでる!」
「あはは」

 なんだーそっかー、焦って損したー。たまたまかー、たまたま仕事のついでに俺を見つけたのかーへー……

「いやー絶対ミルキとかもびっくりするってー、たぶん同じこと言うよー……」

 準廃のオン友がパドキアの近くにいるから天空闘技場の闘士を見た? そんな馬鹿な。ネトゲ準廃と格闘のメッカが繋がるか? 普通。

 普通に考えて、天空闘技場の闘士をチェックしたのは俺の発言より前。天空闘技場の闘士と同じ名前のオン友がその付近にいると言っていた、これなら繋がる。つまり、俺の名前と顔ははじめから知っていた。それがオン友のアカルかもしれないと昨日知った。こうだ。

 俺のことを知った前後関係をわざわざ変えた意味。それは、

「それよりさ、携帯電波強いやつがいいって、アカル地下に潜る予定でもあるの?」

 旅団のシャルナークとして来たから。

「……シャル、仕事でこっち来たんだよね?」
「そうだよ」
「仕事って、何?」

 聞けば、顔に笑みを貼り付けたままではあるが、その表情は明らかにワントーン下がった。目が光を失っていくのがわかる。

「うーん、団長の言ってた通りだなあ。突然頭が回るようになるね?」
「……っ!」

 投げかけられた言葉に、思わず臨戦態勢に入る。しかし明らかに構えた俺とは違い、シャルは敵意がないことを示すように両手を挙げてみせた。

「あ、待って。戦るつもりはないんだ。本当だよ。アカルもわかるでしょ? 腕が良くて気の合う仲間がいかに貴重か」

 それは……そうだった。

 強いだけの人はそこそこいる。けどめちゃくちゃ自分勝手だったり、装備の質やステータスがいいだけでプレイヤースキルはそうでもない人がほとんど。適切な状況判断を下し、それを選択する能力がないと腕が良いとは言えない。そんな人は一握りだ。

「その反応、オレ達のことムジナから聞いてるよね? だから言うけど、もともと団長もそんなに乗り気じゃないんだ」
「え?」

 意外な発言に驚く。

「まあとりあえず、色々話したいからさ、アカルの部屋行こうよ。闘技場側から貰ってるでしょ?」
「えっ」

 なんで俺の部屋? いや、確かにその通りだけど。

「団長もそっち行ってるからさ」

 なにそれこわい。


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