恋の瞬間を、いま


「名前、はい」

「落とさないでね?」

「落とす訳ないでしょ、ほら」

「よいしょ、っと…」



窓枠に足をかけ、佳主馬の手を借りて屋根の上に登る
久し振りに見る景色は、昔と変わらない星空が広がっていた



「うわあ、久し振り!」

「気を付けてよ」

「うん!」



空を見上げながらその場に腰をおろすと、佳主馬も隣に座った



「懐かしいね、佳主馬」

「そうだね」

「13年振りかな?」



初めてここに登ったのは5歳の時
佳主馬がお父さんとお母さんがいない寂しさで泣いてばっかりだった私を連れ出してくれた
結局降りられなくなっちゃって万里子おばさんと聖美さんに叱られたっけ
景色は何も変わってないのに、隣に座ってる佳主馬はいつの間にか私よりもずっと大きくなっていて、
なんだか不思議な気分になった



「佳主馬は変わったね」

「そう?」

「大きくなったし、強くなったし、格好良くなった」

「別に、背が伸びたくらいでしょ」

「…でも、学校でモテるんでしょ?
バレンタインにチョコ沢山貰ってくるって聖美さんが言ってたよ」



小さい時は私だけの佳主馬だったのに、とわざと拗ねたように言ってみれば、佳主馬は私の頬をつねった



「っ、いひゃいよ!」

「名前こそ、もちろん身長は伸びたしあの頃よりずっと綺麗になった
この前新聞配達の高校生に告白されたんだってね
万里子おばさんが言ってた」

「そ、それは…」

「おばあちゃんの知り合いからお見合いの話も結構来るんでしょ?
小さい時は僕だけの可愛い名前だったのに」

「…私には佳主馬だけだよ?お見合いも告白も全部断ってるもん」

「僕だって、バレンタインは名前が送ってくれたチョコしか食べなかったよ
他のは全部母さんにあげたし、食べる気にもならなかった」

「本当に?」

「名前こそ、嘘ついてない?」



じいっと佳主馬の目を見つめると、佳主馬も見つめ返してくる
何だかおかしくなってきて、気付いたら小さく笑っていた



「…ふふっ、私達やっぱりまだ子供なのかな」

「そうかもね、でも」



佳主馬が私に向かって両腕を広げる
大人しくその中に納まると、ぎゅっと抱き締められた



「大人になっても、僕が愛してるのは名前だけだよ」

「私も、ずーっと佳主馬のことが好き!」



恋の瞬間を、いま

(佳主馬が隣にいてくれるだけで幸せ)
(名前が、僕の全て)

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