横顔を伝うもの
どれくらい時間が経ったんだろう
何をする訳でもなく、ただぼーっと時間が過ぎるのを待っていた
なんだか淋しくなってこの前佳主馬に貰ったキング・カズマのぬいぐるみを抱き締めると、静かに襖が開いた
「名前、もう出発するぞ」
「お父さん、あのね、「行かないんだろ?」…え?」
「分かるよ、俺は名前の父親なんだから」
お父さんはそう言って笑うと私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた
その笑顔に、その声に、涙が溢れて頬を伝う
「ごめんね、ごめんね…っ」
「謝るなよ、俺は名前が幸せなら何だっていいんだ」
「でも…っ!」
「泣くな、俺が佳主馬に怒られちゃうだろ?」
「…あはは、うん、そうだね」
両手で涙を拭って笑顔を作る
それを見たお父さんは安心したように笑った
「理一に聞いたけど、英語話せるようになったんだってな」
「うん」
「今度遊びにおいで、色々見せたいものがあるんだ」
「行く!約束だよ?」
「おう!…よし、じゃあ、またな」
鞄を持って立ち上がるお父さんに続いて部屋を出る
もう1度泣きそうになったのを必死に堪えて、にっこりと笑ってみせた
「行ってらっしゃい、お父さん!」
「行ってきます、いい子でな」
***
みんな黙々と食事を続けて重苦しい空気が流れる
不意に玄関の方からエンジン音が聞こえて、様子を見た理香おばさんが驚いたように目を見開いた
「ちょっと、どこ行くのよ理介!」
「どこって、帰るんだよ」
その声にはっとして外を見ると、理介おじさんが車の中から手を振っていた
「おじさん!」
「佳主馬!仕方ないからもう少しだけお前に預けといてやる!」
「…は?」
「泣かせたら承知しないからな!」
そう言って走り去っていく理介おじさんを呆然と見送る
そんな中、隣にいた翔太兄がぽつりと呟いた
「あれ、名前?」
翔太兄の視線を辿ると確かに名前が立っている
みんなが息をのむ中、名前は照れ笑いを浮かべながら口を開いた
「えっと、その…これからもよろしくお願いします」
小さく頭を下げる名前に一気に騒がしくなる親戚たち
気付いたら駆け出して名前を思い切り抱き締めていた
横顔を伝うもの
(本当は、君を失うのが怖くて仕方なかったんだ)
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