呼吸を忘れて君を見た
詰め込むように朝ご飯を食べてOZにログインする
ボイスチャットモードを立ち上げて翔太兄を呼び出すと、キングの隣に柄の悪いサルのアバターが現れた
『なんだよ佳主馬』
『今どこ?名前は?』
『名前?名前ならさっき家の近くで降ろしたぜ?』
『は?!』
『急な仕事が入っちまってよぉ』
『何やってんだよバカ!』
『バカぁ?!おい、佳主っ…!』
通信を無理矢理切断して玄関に向かう
スニーカーを履くと行き先も考えないまま外に飛び出した
***
「離してっ!」
思い切り腕を振ると男の手が離れる
逃げなきゃ、そう思って男に背を向けると、左足に激痛が走った
「痛…っ!」
突然の出来事に思わず転んでしまう
足に深い切り傷ができて、血が絶えず流れているのが目についた
「怖がらなくていいんだよ、痛いのはほんの一瞬だからね
君を一生愛してあげるから、君も僕を一生愛してくれ」
じわり、じわりと近付いてくる男の手にはナイフが握られている
逃げられないと悟った私は、覚悟を決めて男を睨んだ
「たとえあなたが私をここで殺しても、私は絶対にあなたの物にはならない!
私が、陣内名前が愛してるのは池沢佳主馬だけだから!」
「…どうして、どうして分かってくれないんだよ!」
男は狂ったように喚き散らしてナイフを振り上げる
ぎゅ、と目を閉じたけど痛みが襲ってくることはなく、代わりに人を殴る鈍い音が聞こえた
そっと目を開けると、視界いっぱいに小麦色の肌と揺れる黒髪が広がった
「遅れてごめん、名前」
呼吸を忘れて君を見た
(緊張の糸が切れた私は、そのまま意識を手放した)
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