灰色ラブソング
朝、目を覚ますと隣で寝ていた筈の名前の姿がなかった
急いで飛び起きて居間に向かうと、侘助おじさんが目を丸くして僕を見る
「どうした、佳主馬」
「名前は?!」
「お前と寝てたんじゃないのか」
「朝起きたら、いなくなってた」
「…は?」
嫌な汗が頬を伝う
ぎり、と歯を食いしばると母さんがエプロン姿で中に入ってきた
「名前ちゃん探してるの?」
「母さん知ってるの?!」
「翔太と出てったわよ、万里子おばさんにお遣い頼まれて」
「翔太兄と?」
一瞬にして全身の力が抜けてずるずると座り込む
おじさんもほっとした顔で息を吐いた
「それなら大丈夫だろ、あいつ警官だし」
「…そうだね」
「一応飯食ったら翔太に連絡してみるか」
「うん」
おじさんに促されて朝食を食べる
翔太兄と一緒なら大丈夫、大丈夫だけど、
…この胸騒ぎは、何?
***
「全部揃ったか?」
「うん!車出してくれてありがとう!」
「おう、じゃあ帰るぞー」
翔太兄がアクセルを踏み車を走らせる
暫くお話ししていると、翔太兄の携帯が鳴った
「もしもし…え、マジっすか?!
はい、はい…なるべく早く向かいます、失礼します」
「どうしたの?」
「コンビニ強盗だってよ」
「え、大変!私なら大丈夫だから早く行ってあげて?」
「ごめんな、歩いて帰れるか?」
「うん!翔太兄、気をつけてね」
「ありがとな」
車から降りて翔太兄を見送る
買い物袋を抱え直して歩き出すと、家の近くに知らない車が停まっているのが見えた
「(お客さんかな…?)」
もうすぐおばあちゃんの法事だから誰か挨拶に来たのかも
そう思って通り過ぎようとしたら、車のドアが開いて腕を掴まれた
「っ?!」
「やっと会えたね、陣内名前ちゃん…いや、」
車から出てきた小太りの男は一旦言葉を切る
そして、背筋が凍るような笑みを浮かべて私を見た
「僕の歌姫…アバターの名前」
灰色ラブソング
(頭の中で警報が鳴り響く)
(助けて佳主馬…!)
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[mokuji]
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