空論にすらなりえない
「翔太兄、お願いがあるの」
「おう、名前の頼みなら何でも聞いてやるぜ!」
「ありがとう!あのね、数学教えて「おっと、パトロールの時間だ!」もう!翔太兄ってば!」
冷や汗をかきながら走り去っていく翔太兄に溜め息をつく
こんな時に限って健二さんはお出掛け中だし…
仕方なく部屋に戻ろうとした時に後ろから声を掛けられた
「俺が教えてやろうか、名前」
「侘助おじさん!いつ帰ってきたの?」
「さっきだよ、久し振りだな」
「うん!」
ぎゅうっと腰に抱きつくと頭をぽんぽんと撫でられる
侘助おじさんは柔らかく笑ってから私を抱き上げた
「ひゃあっ!」
「相変わらず軽いな」
「もう、おじさんってば!」
「シシッ、なあ名前、最近変わりないか?」
「最近…?うん、元気だよ?」
「…そうか、まだ大丈夫か」
「おじさん?今何て言ったの?」
「ん?何でもねぇよ、数学やるんだろ」
「あ、うん!この問題なんだけど…」
***
深夜3時
OZの格闘場でトレーニングをしていると侘助おじさんが納戸の襖を開けた
「佳主馬、ちょっといいか」
「無理、今忙しい」
「急ぎなんだよ、名前のことで」
「…何、」
ログアウトしてパソコンを閉じると、おじさんは苦笑いしながら僕と向き合うように座った
「忙しいんじゃねえのかよ」
「名前のことなら別」
「そうかよ…単刀直入に言うと、名前が今非常に危険な状態にある」
「どういうこと?」
「OZの中でも有名人やスポーツ選手、政治家なんかのセキュリティは一般人よりも厳重になっているのは知ってるだろ?
その中でもお前達、キング・カズマと歌姫アバターの名前のセキュリティは別格だ
その高度なセキュリティの中から、アバターの名前の情報が奪われた」
「…ハッキング?」
「いや、日本のセキュリティシステムを管理してる職員の1人がコピーしたらしい
噂によると、どこぞの金持ちに1億円で売ったとか」
「何、それ…」
「職員はもちろん捕まったが情報を買った奴はまだ見つかってない
理介も今日本に来て血眼で探してるところだ」
「でも、ニュースにはなってないじゃん!」
「ニュースなんかで流してみろ、真似する奴らが絶対出てくるだろ!
この件は秘密裏に処理されてるから誰にも知られてない
いいか、絶対に名前を1人にするな
向こうは名前の顔も本名も全部知ってるんだからな!」
「…名前には言ったの?」
「いや、怖がらせたくないからな
佳主馬、お前しか名前を守れない」
侘助おじさんの真剣な瞳が僕を射抜く
拳をきつく握り締めて、僕は口を開いた
「名前は、僕が絶対守る」
空論にすらなりえない
(だから安心してよ、名前)
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