離れなかった離さなかった


「名前姉ちゃーん!」

「名前姉ちゃんどこー?!」

「お部屋だよー」



ギターを弾いていた手を止めて返事をする
大きな足音が近付いてきて数秒もしないうちに恭平と真悟が部屋になだれ込んできた



「どうしたの?」

「姉ちゃん花火しようぜ!」

「しようぜー!」



そう言う恭平の手には手持ち花火の束
典子さんが買ってくれたらしい



「お姉ちゃんはいいからみんなで遊んでおいで」

「だって母ちゃんが名前姉ちゃんか佳主馬がいないと危ないからダメだって」

「あー…、なるほどね」



佳主馬が子ども達に混ざって花火やるなんて絶対ないもんね
私はギターを片付けて立ち上がる



「じゃあマッチとろうそく貰ってくるから、2人はバケツと水を用意しておいて」

「はーい!」



元気よく駆け出した2人のあとに続いて部屋を出る
向かうのはもちろん万里子おばさんの部屋



「万里子おばさん、マッチとろうそくある?」

「ええ、何に使うの?」

「恭平たちが花火やるんだって」


「そうなの、…あ、ちょっと待ってなさいな」



そう言ってどこかへ行ってしまった万里子おばさん
戻ってきたとき手にしていたのは、



「…浴衣?」



***



「ごめんね、お待たせ」

「わあ、名前お姉ちゃん可愛い!」


「姉ちゃんすげー!きれー!」

「ふふ、ありがとう」



目を輝かせる真緒と祐平の頭を一撫でしてろうそくに火を灯す
歓声をあげながら花火に火をつけるみんなを縁側から見守っていると、足元に座っていたハヤテが私の後ろを見つめて嬉しそうに吠えた



「ここにいたんだ、名前」

「佳主馬…」



私の隣に腰を下ろす佳主馬は、白い浴衣を着ていた
佳主馬の褐色の肌に白が良く映えていて、いつもと違う姿にドキドキしてしまう



「母さんに無理やり着せられたんだよ、せっかく名前が着てるんだからって」

「そうなんだ、私は万里子おばさんに着付けでもらったの」

「ふーん」

「お姉ちゃーん!」



花火を見せようと私を呼ぶ加奈に手を振って応える
すると、佳主馬がぽつりと呟いた



「…綺麗、」

「ね!花火ってすごいよね」

「そうじゃなくて、」



ぐ、と肩を抱かれて引き寄せられる
そして、耳元で佳主馬が囁いた



「花火じゃなくて、名前のことだよ」

「っ!」



びっくりして顔をあげると、優しく微笑む佳主馬と目が合う
その表情に、さっきよりも心臓が跳ねた



「…佳主馬も、とっても格好良いよ」

「!…ばか」



手を絡めて、触れるだけのキスをして、
私達は顔を真っ赤にして笑いあった



離れなかった離さなかった

(愛しくて愛しくて仕方ないの)

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