わたしのすきな温度


「佳主馬、隣でパソコンいじってもいい?」

「いいよ、おいで」



パソコンを持って納戸に向かうと佳主馬がスペースを空けてくれる
お礼を言って座ると不思議そうな顔で尋ねられた



「珍しいね、曲の発表以外でOZにログインするなんて」

「ちょっとお買い物したくて」

「そう、変な奴に絡まれたらすぐに言ってよ」

「うん、ありがとう」



画面に目を向けてアバターの名前を泳がせる
優雅に泳ぐ彼女の周りにはすぐに人だかりが出来た



『アバターの名前さんこんにちは!』

『今日はどうされたんですか?』

『アバターの名前ー!好きだー!』

『結婚しませんかwww』



色々と話し掛けてくれるファンの人達と会話をしながら買い物を始める
欲しかったものを一通り買い揃えて店を出ると、黄色いアバターが目の前に現れた



『アバターの名前ちゃん!』

『こんにちは』



軽く会釈をして立ち去ろうとしてもそのアバターは必死に走ってついてくる
不思議に思って佳主馬のタンクトップを引っ張ると、キーボードを打つ手を止めて私の画面を覗き込んだ



「この人、ずっとついてくるんだけど…」

「どれ?…ああ、大丈夫だよ」

「佳主馬の知り合い?」

「これ、健二さん」

「ええっ?!」



私は急いで引き返して健二さんのアバターの元に向かう
黄色いリス(…だよね?)は息を切らしていた



『ごっ、ごめんなさい健二さん!』

『いや、アバター教えてなかった僕が悪かったよ』



へらりと笑うアバターに健二さんの姿が重なる
思わず小さく笑うと健二さんの後ろからサルのアバターが現れた



『おい健二!なんで歌姫と仲良く話せてるんだよ!』

『あ、紹介するねアバターの名前ちゃん、高校時代の友達の佐久間』

『初めまして佐久間さん』

『えっ?は、は、初めまして!僕、ずっと貴女のファンでした!』

『本当ですか?嬉しいです!もし良かったらお友達になってくれませんか?』

『いいんですか?!』



***



『それで、コイツ数学オリンピックの代表逃しちゃって!』

『あはは、そうなんですか』

『ちょ、やめてよ佐久間!』



佐久間さんや健二さんのお話が面白くてついつい長話をしてしまう
クスクス笑っているとすごい勢いで頭上から何かが落ちてきた



『わ!えっ…キング・カズマ?!』

『もういいでしょ、返して』



言い終わるのと同時にキング・カズマがアバターの名前を抱きかかえて高く飛び上がる
沢山の冷やかしや羨望の声が上がる中、私達はログアウトした



「…佳主馬?」

「話長すぎだよ」

「ごめん、佐久間さんと健二さんが面白くて…」

「許さない」



そう言って佳主馬が私を抱き締める
いつもより強い力に少し咽せても、その腕が離れることはない



「佳主馬、もしかして嫉妬してくれた?」

「…悪い?」

「ううん、嬉しい」



離してくれないから佳主馬の表情は分からないけど、髪の隙間から覗く耳は真っ赤だった



「佳主馬が1番だよ、大好き」

「当たり前だよ、バカ名前」



わたしのすきな温度

(誰よりも素敵な人)

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