真相の時間



「名前!」

「お帰りなさい、カルマくん」



自分の家であり彼女の家であるマンションの一室に到着すると、名前はいつも通り俺を出迎えた
いつもと違うのは、手足に出来た無数の擦り傷
名前をソファに座らせて何があったのか問いただすと、彼女は悔しそうに眉を顰めて口を開いた



「喧嘩したの」

「はぁ?」

「D組の男の子に告白されて、」

「…うん」

「…カルマくん、怖い顔してる」

「いいから続けて」

「それで、私断ったの、そうしたら“E組に落ちた落ちこぼれの彼氏なんて忘れろよ”って言うから、カルマくんのこと悪く言われたの悔しくて…っ」

「もう、泣かないでいいんだよ」

「ふぇ…っ、それで、“カルマくんの方が貴方よりずっとずっと頭が良くて格好良いんだから”って言ったの、そうしたらほっぺた叩かれて、びっくりして転んじゃって…」



余程悔しかったのか、ぽろぽろと涙を流す名前の頬をセーターの袖で拭いながらも相手の男への殺意は膨れ上がっていく
大方相手の予想は出来る
頭が悪いくせにプライドばかり高い、毎日名前を舐めるように見つめていたアイツだろう
今すぐにでも殺してやりたい、けど、名前の話はどうも腑に落ちない



「でもさぁ、それおかしくない?」

「え?」

「普通、そいつがE組落ちになるでしょ」



名前はA組の中でも3本の指に入る優等生、比べて奴はE組すれすれのD組
どうしたって名前がE組に落ちる訳がない



「誰かが先生を呼んでくれたみたいで、最初は彼がすごく怒られてE組に落とすぞって先生に言われてた」

「じゃあ何で、」

「私が先生にお願いしたの、私をE組にしてくださいって」

「…は?」

「でも先生は絶対駄目だって。だから理事長室のカーペットに墨汁をまいてでもE組に入るって言ったら、青い顔をして許可してくれたの」

「何でそんな事したわけ?」

「…カルマくんと、同じ校舎が良かったから」



そんな理由で、本校舎首席の椅子を蹴ってまでE組を志願したなんて
俺と同じ校舎になりたい一心で
突然黙った俺に不安になったのか、名前はまた目に涙を浮かべながら俺の裾をちょんちょんと引っ張る
その綺麗な手を引き寄せて抱きしめると、胸の辺りで小さく悲鳴が上がった



「びっくりした…!」

「何なの名前、可愛すぎるんだけど!」

「私、カルマくんが別校舎に行っちゃって本当に寂しかったんだからね」

「一緒に住んでても?」

「…同じ学校に通ってるのに、授業が終わるまで会えないなんておかしいもん」

「じゃあこれからはずっと一緒だね、昔みたいに」

「うん!」



嬉しそうに笑う名前の鼻先に小さくキスをする
それでも頭の中では名前を傷付けた奴にどう仕返ししてやろうか、そればかりを考えていた



真相の時間
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