怖い時間

僕等の大規模潜入ミッションは…
ホテル側の誰1人気付かないまま完了した
皆の待つホテルに戻って、もう大丈夫な事を伝えて、それぞれがそれぞれの疲れで泥のように眠って…
起きたのは、次の日の夕方だった



「暗殺…肝だめし?」


みんなが呆然と繰り返すなか、1人ノリノリな殺せんせーが続ける



「先生がお化け役を務めます、久々にたっぷり分身して動きますよぉ。もちろん先生は殺してもOK!暗殺旅行の締めくくりにはピッタリでしょう」

「面白そーじゃん、昨日の晩動けなかった分憂さ晴らしだ!」

「えー、でも怖いのやだな」

「平気平気!」



盛り上がるクラスメイト達をにこにこと見守る殺せんせー
優しい笑顔の裏側に見え隠れする本心をまだ誰も見抜くことは出来なかった



***



ー場所はこの島の海底洞窟、300メートル先の出口まで…男女ペアで抜けて下さい


殺せんせーの指示通り、真っ暗な洞窟を名前の手を引いて進む
伝わってくる体温からもうあの酷い熱は感じられずほっとしながら、それでも可哀想なくらい震えている手に思わず苦笑いした



「名前、大丈夫?」

「う、うん!平気だよ!」



そんな真っ青な顔で何が平気なんだか
近くに殺せんせーの気配もないし、俺は足を止めて名前を抱き締めた



「カルマくん…?」

「大丈夫、俺がいるから」



ぽんぽんと頭を撫でると名前の震えはぴたりと止まる
名前はもぞもぞと顔を上げてにっこり笑った



「ありがとう、もう大丈夫」

「名前ってば昔から本当怖がりなんだから」

「カルマくんが強いだけだもん」

「そんな事ないって」

「だってカルマくん、喧嘩もお化けも虫も平気だし…怖いものなんてないでしょ?」

「怖いもの…うーん、あるよ」

「え、そうなの?」

「うん、ふたつ。ひとつは、名前がいなくなること。もうひとつは…怖くないのが、怖い」

「怖くないのが…怖い?」

「鷹岡を倒した時の渚君見てさ…正直俺衝撃受けた」

「鷹岡先生を倒したことに?」

「ううん、倒して帰ってきた後だよ。全然怖くないんだ、あんだけの強敵を仕留めた人間が。強い所を見せた奴って普通ちょっとは警戒されるけど、渚君は何事もなく皆の中に戻ってった」

「…うん」

「ケンカしたら俺が100%勝てるけど、殺し屋にとってそんな勝敗何の意味もない。警戒できない、怖くないって、実は1番怖いんだなって初めて思った」



名前の身体を離して向き合う
名前は俺の弱さも本音も全部汲み取ったみたいに、穏やかな表情を浮かべていた



「それでも、負けるつもりはないんでしょう?」

「もちろん、先生の命を頂くのはこの俺だよ」

「楽しみにしてる。一緒に頑張ろうね、カルマくん」



本当に、名前ほど俺のことを理解してくれる女は世界中のどこを探したっていやしないだろう
額に小さくキスをしてから、俺たちは出口へ向かって再び歩き出した



怖い時間
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