記憶の時間

「今日、莉桜ちゃんにどうしたら私達みたいにずっと一緒にいられるかって聞かれたよ」

「それ、俺も渚くんに聞かれた」



夕飯を作る名前をぼんやりと眺めながら恐らく中村に振り回されただろう渚くんに同情する
ふと視線を横にずらすと写真たてに飾られた俺達と両親の古い写真が目に入り、俺はゆっくりと瞼を閉じた



***



名前のお母さんの葬儀が終わり、母さんが名前を連れてきた日
これから一緒に暮らすと聞いて浮かれていた俺は名前の姿を見て言葉を失った
いつも振り撒いていた花のような笑顔は跡形もなく消え去り、人形のように無表情で部屋から一歩も動かない
期待してた生活と180度違う現実に俺は堪らなくなって母さんに尋ねた



「かあさん、」

「なあに?業」

「どうして名前はかわっちゃったの?」

「…名前ちゃんはね、淋しいのよ」

「どうして?」

「名前ちゃんのお父さんとお母さん、遠くへ行ってしまったの」

「もうあえないの?」

「そうよ、業だって父さんと母さんに会えなくなったら悲しいでしょう?」



幼いながらに名前が辛い状況に立たされている事を理解出来た俺はずっと避けていた名前の部屋へと向かう
そっと部屋の中に入って手を握ると、名前が少しだけ視線を動かして俺を見た



「名前は、ひとりぼっちじゃないよ」

「…ひとりぼっちだよ」

「おれがいるじゃん」

「カルマくんが?」

「おれがずっといっしょにいるから、だからひとりぼっちじゃない」

「…うそだもん、いつかおかあさんみたいにいなくなっちゃうもん」

「うそじゃないよ」



握っていた手を離して左手の薬指に噛みつく
まだ加減が分からなくて血が滲む程力を入れてしまうと、突然の出来事に名前は顔を強張らせた



「いたい!」

「ほらみて、ゆびわみたいでしょ?」

「…どうしてかむの?」

「おとなになったら、ここにゆびわするとけっこんできるんだって。だからおとなになるまで名前のことよやくしたの!」

「よやく?」

「名前とずっといっしょにいるってやくそく!ほら、名前も」



促すように自分の左手を差し出すと、名前もおっかなびっくり俺の薬指に噛みついてくる
かなり控えめに噛んだせいでうっすら噛み痕が残るくらいだったけど、それでも俺は満足だった



「これで、カルマくんはいなくならないの?」

「ぜったいいなくならないよ」

「…そっかぁ、うれしい」



名前は自分のと俺の薬指を交互に見てふわりと微笑んだ
久し振りに見た笑顔に心臓がばくばくと脈を打つ
今思えば、俺はその時名前を好きになったんだろう



***



「カルマくん?眠いの?」

「…ううん、考え事してた」

「そっか、ご飯出来たよ」



目を開けると随分と成長した名前があの頃と変わらない笑顔で笑っている
思わず手を引いて抱き寄せると、胸元からくぐもった笑い声が聞こえた



「カルマくん?どうしたの?」

「名前、大好きだよ」

「…私もカルマくんの事大好き」

「約束、ちゃんと守るからね」



形の良い唇に指を這わせてから自分のそれを重ねる
初めて約束を交わしたあの日のように、薬指がちくんと痛んだ気がした



記憶の時間
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