嫉妬の時間

「あれ、ねえ茅野ちゃん、名前は?」

「さっき烏間先生に頼まれて本校舎に行ったよ?カルマくん寝てたから気付かなかったんでしょ」

「…は?何で名前なの?」

「名前なら本校舎でも堂々としていられるだろうって烏間先生が…」

「…茅野ちゃん、俺も一緒に行ったって伝えておいて」

「えっ、もう授業始まるよ?!」



後ろでは茅野ちゃんがまだ何か言ってるけど、俺は立ち止まる事なく本校舎に向かってひたすら走る
どうせ名前は成績優秀で友達も多いから本校舎に行っても大丈夫って考えなんだろうけど…
可愛くて頭が良くて性格も良い
こんなパーフェクトな人間だって誰からも好かれる訳じゃない
むしろそんな人間だからこそ他人から恨みも買いやすい
嫌な予感しかしなくて、足にありったけの力を込めて速度を上げた



***



「あれぇ?エンドのE組が本校舎に何の用?」



資料室で烏間先生に頼まれた資料を集めていると、不意に後ろから掛けられた声
振り返ると3人の女の子が入り口を塞ぐように立っていた



「授業で使う資料を借りにきたの、もう帰るからどいてもらっても良いかな?」

「まあまあ、もう少しゆっくりしていきなよ」



どん、と突き飛ばされて尻もちをついてしまう
突然のことに驚いていると1人が私の手から資料をひったくってばら撒いた



「あんた達E組が私達と同じもの使って勉強出来ると思ってるの?」

「でも、ちゃんと許可をいただいてる筈だよ?」

「はぁ?誰がE組なんかに許可するのよ!」

「それに、あんた前からムカつくのよね。男に媚び売ってる感じが」

「そんな、私は別に…」

「ちょっと頭が良くて可愛いからってチヤホヤされて、いい気になってるんでしょ?」

「でも所詮E組じゃない、ねえ?」



きゃははは、と甲高い声で笑う女の子達
どうしたらいいか分からずに困っていると、不意に資料室の扉が開いた



「君達、そこで何してるんだ?」

「浅野君!」



現れたのは元クラスメイトの学秀君
生徒会長でもある彼の登場に女の子達が怯んでいると、彼は私の元まで歩いてきて手を差し伸べた



「大丈夫かい?名前さん」

「うん、ありがとう学秀君」

「っ、浅野君!そんな事する必要ないよ!」

「そうよ、エンドのE組なんて放っておいた方が…!」

「君達は、一度でも彼女に勝った事があるのか?」

「ひっ…!」



冷たく、見下すような目に思わず私まで息を飲む
学秀君は散らばった資料を集めながら話を続けた



「名前さんの才能に嫉妬するのは構わないが、彼女に勝とうと努力するのではなく八つ当たりするなんて低脳のクズが考える事だ。君達こそE組に相応しいんじゃないか?」

「…っ、」

「さっさと行け、不愉快だ」



その言葉に、彼女達は弾かれたように資料室を後にする
すると学秀君は集めた資料を手渡して優しく笑った



「怪我は?」

「大丈夫、助けてくれてありがとう」

「嫌な思いをさせてしまってごめんよ、旧校舎まで送ろう」

「ううん、授業始まっちゃうし私1人で大丈夫だよ!」

「僕がそうしたいんだから、ね、いいだろ?」



学秀君はそう言うと私の肩に手を回す
それと同時にもう一度資料室の扉が、今度はけたたましい音を立てて開いた



「名前に触らないでくれる?」

「カルマくん!」

「…やれやれ、邪魔が入った」



カルマくんの姿に学秀君は手を離す
その隙にカルマくんが私の手を引いて抱き寄せた



「名前は俺のものだって何回言ったら分かるの?もしかしてさぁ、生徒会長のくせに馬鹿なの?」

「君こそ、名前さんの事をきちんと守れないようじゃ彼氏を名乗る資格なんてないんじゃないか?」

「…殺す」

「っカルマくん!だめ!」



学秀君に殴りかかる寸前のカルマくんを何とか止める
それと同時に授業開始のチャイムが鳴って、学秀君は資料室を出て行った



「またね、名前さん」



そう言い残し、私の髪にキスをして



「殺す、あいつ絶対殺す」

「カルマくん!私達も戻ろう?ね?」

「名前も、何でこっち来る時俺の事起こさなかったの?」

「…ごめんなさい、気持ち良さそうに寝てたから起こしちゃ悪いと思って」

「今度から絶対1人で行動しちゃダメだからね」



不機嫌な表情のままカルマくんは私の手を握って旧校舎へと歩き出す
帰り際にちらりとA組を覗くと、学秀君がにっこりと笑っていた



嫉妬の時間
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