寄り道の時間
「ねえカルマくん、このお店寄ってもいい?」
「ん、いいよ」
日曜日、夕飯の買い物帰りに立ち寄ったのはオープンしたてのいかにも名前が好きそうな雑貨屋
嬉しそうに目を輝かせて店内を歩く名前の少し後ろをついて行くと、ある一点を見つめてぴたりと動かなくなった
「名前?どうしたの?」
「カルマくん、これ買ってもいい…?」
差し出されたのは猫のイラストがプリントされたマグカップで、俺はまたかと肩を落とす
可哀想だけどマグカップを受け取ってそのまま棚に戻すと、名前がこの世の終わりみたいな顔をした
「そんな顔しないでよ、買ってあげたくなっちゃうじゃん」
「じゃあ…!」
「でもだーめ。先週買ったキリンのマグカップは?その前買ったウサギのは?先月は何だっけ、パンダに象にペンギンだったっけ?」
「うう、全部ちゃんと使ってるよ」
「そう、それが問題なの。買うだけ買って飾っておくならまだしもさ、全部使おうとするから家の食器棚マグカップだらけじゃん。それで遂にこの前古いやつが乗り切らなくて割れちゃったでしょ?」
「そっかぁ、ダメかぁ…」
しゅんと項垂れてもう一度ちらりとマグカップを見てから、ぶんぶんと頭を振って別の棚を見に行く名前
名前は俺の言う事なら全部素直に聞くからこういう時に胸が痛む
全く、この調子だと来月には食器棚買い換えないといけないかもな…
そんな事を思いながらさっきのマグカップをレジに持って行って会計を済ませると、先に外で待っていた名前に手渡した
「カルマくん、これ…!」
「もう本当にそれで最後だからね」
「うん!嬉しい、カルマくん大好き!」
「俺も大好き、だけど割れ物持ってるんだからちょっと落ち着こうね」
「はーい!」
どこまでも名前に甘いこの性格をいい加減どうにかしないと、
そう思いつつも名前の満面の笑顔を見ていると、次も結局甘やかしてしまうだろう自分の姿を容易に想像出来て俺は小さく苦笑した
寄り道の時間
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