納涼の時間
「あ、名前ー!こっちこっち!」
「カエデちゃん!」
「おや、カルマ君に名前さん、来ましたね」
夕方、浴衣姿で学校に行くと殺せんせーにふわりと屋根の上に運ばれる
周りには既にほとんどの子が集まっていて、私はカルマくんの手を借りながらカエデちゃんと渚くんの元に移動した
「怪我の具合はどうですか?」
「はい、だいぶ良くなりました」
「すみませんでした、もっと早く気付いてあげれば良かったのですが…」
「いえ、先生のお陰で皆無事で本当に良かったです」
「名前さん、何ていい子なんでしょう…っ!」
「何、泣いてるの?殺せんせー」
「泣いていません茅野さん!目にゴミが入っただけです!」
ハンカチを片手に鼻を啜る殺せんせーに笑っていると、夜空がぱぁっと明るくなる
急いで見上げると色とりどりの大きな花火が打ち上がっていた
「…わぁ、綺麗」
「どうです、こんな穴場スポット他には無いでしょう?」
「たまには良い事するじゃん殺せんせー!」
「にゅやッ!いつも通りと言ってください倉橋さん!」
殺せんせーが企画してくれた放課後の花火見物
あまりの絶景につい見惚れていると、隣に座っているカルマくんがきゅっと私の右手を握った
「綺麗だね、カルマくん」
「そうだね」
「…私、E組に来て本当に良かった」
「劣等生のレッテルを貼られても?」
「うん!こんな素敵な先生とクラスメイト、他にはいないよ」
本校舎にいたら、勉強だけで終わっていただろう中学生活最後の1年間
非日常的な事ばかりだけど、怪我した足はまだ痛むけど、
それでも、このクラスの一員になれた事がとても嬉しくて、それと同時に寂しかった
「…終わっちゃうんだね、いつかはこのクラスも」
「あと半年もすればね」
「本校舎にいた頃は卒業が寂しいなんて思わなかったのに、今はこのクラスが終わっちゃう事がすごく寂しいよ」
「…始まりがあれば必ず終わりを迎える」
「…うん、分かってる」
「でも、忘れないで」
「…?」
「俺はどこにも行かない、だから俺達に終わりなんてない」
「カルマくん…」
優しく微笑むカルマくんにつられて笑うと、くしゃくしゃと頭を撫でられる
…カルマくんさえ傍にいてくれたら何だっていい
カルマくんの左手を握り返すと、私はもう一度空を見上げた
納涼の時間
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