夏の時間
蝉の声が鳴り響く猛暑日、クーラーのない教室でクラス中が暑さで参っている
そんななか名前がにこにこと話し掛けてきた
「でも今日プール開きだよね、体育の時間が待ち遠しいな」
「いや…そのプールがE組にとっちゃ地獄なんだよ」
名前の声に反応した菅谷が話に入ってくる
もはや誰もが授業中であることを忘れていた
「なんせプールは本校舎にしか無いんだから、炎天下の山道を1km往復して入りに行く必要がある」
「うう、本校舎まで運んでくれよ殺せんせー」
「仕方無い、全員水着に着替えてついて来なさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう、そこに涼みに行きましょう」
***
「裏山に沢なんてあったんだ!」
「一応ね、足首まであるかないかと深さだけど」
あまり期待してないクラスの奴らとは違って、名前はうきうきと山道を下る
名前が転ばないように注意しながら手を引いて歩いていると、あの小さな沢にしては大き過ぎる水音が近付いてきた
「…うわぁ、すごい!」
「なにせ小さな沢を塞き止めたので…水が溜まるまで20時間!制作に1日移動に1分、あとは1秒あれば飛び込めますよ」
「「「い…いやっほぉう!」」」
眼前に現れた立派な“プール”に、我先にと飛び込んでいくクラスメイト達
名前も茅野ちゃんと楽しそうに遊び始めた
「気持ちいいね、カエデちゃん」
「うん、でもちょっと憂鬱。泳ぎは苦手だし…水着は体のラインがはっきり出るし」
「大丈夫さ茅野、その体もいつかどこかで需要があるさ」
「…うん岡島君、二枚目面して盗撮カメラ用意すんのやめよっか」
「それにしても、名前ちゃんは着痩せするタイプだな…クラスの中でも1、2を争うナイスバディの持ち主だぜ」
「はい岡島、カメラ没収」
「ぎゃあああカルマ!」
鼻息も荒く名前を撮る岡島のカメラを森の中にぶん投げる
泣きながら探しに行く岡島を見送っていると、きゃんっと甲高い殺せんせーの悲鳴が響いた
「えっ…」
「何?今の悲鳴」
「ふーん、ねえ名前、ちょっと一緒に来て」
「きゃあッ、揺らさないで水に落ちる!」
名前を連れだって監視イスを揺らすと、面白いくらいに慌てる殺せんせー
そんな様子に、俺等の大半は直感した
今までの中で1番「使える」弱点じゃないかと
こうして、夏にオープンしたE組の専用プール
だけど翌日、このプールがもっと大きな火種を呼ぶキッカケになることは、まだ誰も知らなかった
夏の時間
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